農民連食品分析センターが検出
漢方薬から残留農薬
使用禁止のパラチオン
劇物指定のフェンバレレート
発ガン性のメチダチオン
農民連食品分析センターが、薬局で市販されている漢方薬(生薬)を分析したところ、日本では使用禁止になっているパラチオンをはじめ、フェンバレレート、マラチオンなどの残留農薬を検出しました。
基準ないが残留よくない 厚労省
五種類を分析
分析したのは、今年五月。東京都内の漢方薬局で購入した株式会社ウチダ和漢薬製造の日本薬局方の漢方薬(生薬)、五種類です(表参照)。
漢方生薬の農薬分析結果 |
農民連食品分析センター |
No. |
品名 |
原産国 |
分析結果(単位ppm) |
農薬の種類 |
1 |
サンシュユM(山茱萸) Lot.352715 |
中国 |
パラチオン (0.208) | 有機リン系殺虫剤 |
2 |
タイソウM(大棗) |
中国 |
シペルメトリン (0.068) フェンバレレート(0.116) |
ピレスロイド系殺虫剤 ピレスロイド系殺虫剤 |
3 |
ソヨウM(蘇葉) Lot.352614 |
記載なし |
パラチオンメチル(0.124) パラチオン (0.025) |
有機リン系殺虫剤 有機リン系殺虫剤 |
4 |
チンピM(陳皮) Lot.TG402227 |
記載なし |
パラチオンメチル(1.138) マラチオン (0.054) メチダチオン (0.148) |
有機リン系殺虫剤 有機リン系殺虫剤 有機リン系殺虫剤 |
5 |
キジツM(枳実) Lot402303 |
記載なし |
検出せず |
いずれも日本薬局方 製造販売 株式会社ウチダ和漢薬 分析終了年月日 2003年5月22日 |
山茱萸(サンシュユ)はミズキ科のサンシュユの果実で、寝汗、頻尿、インポテンツ、脚気に用います。
大棗(タイソウ)は菓子の材料にもなるナツメの果実。筋肉疼痛、過敏症、身痛、腹痛に用います。
蘇葉(ソヨウ)はシソの葉。鎮痛、解熱、気管支炎、胃腸炎、魚などの解毒に用います。
陳皮(チンピ)は温州ミカンの果皮を乾燥させたもので、食欲不振、嘔吐、咳嗽に用います。
検出されたパラチオン、パラチオンメチルは、毒性が強いことで知られ、日本では毒劇物取締法で「特定毒物」に指定(72年)され、使用禁止となっている農薬です。現在もなお世界各地で中毒者や死亡者が続出しており、日本でも登録期間中の二十年間で五百九人が死亡、八千九百十七人の中毒者が出ました。強い神経毒性の他、生殖毒性、免疫毒性もあり、パラチオンは環境ホルモンの疑いもあります。
フェンバレレートは魚毒性が強く、「劇物」指定。環境ホルモンの疑いもあります。
マラチオンはマラソンとも呼ばれ、神経に障害を与える強い神経毒性ががあります。また環境ホルモンの他、変異原性の疑いももたれています。
メチダチオン(別名DMTP)、シペルメトリンは、ともに「劇物」に指定され、EPA(アメリカ環境保護庁)が発ガン性を指摘している農薬です。
基準はどうか
生薬の残留農薬の基準はどうなっているか――。日本薬局方によれば人参、人参沫、コウジン、センナの四種類で総BHC、総DDTが二ppm以下と定められている以外、基準は設定されていません。輸入時のチェックは害虫がいないかなどの植物検疫だけ。
漢方薬、西洋薬(新薬)ともに、医薬品は有効成分の含有量や純度試験など規格を満たしたものが承認されますが、国が行うのは製薬メーカーからの「規格に適合しています」という申請を承認するだけ。実際に薬が規格どおりに製造されているか、販売されている薬が規格どおりか、などの監督・指導は都道府県が行うことになっています。
厚生労働省では「病気など体に問題のある人が服用する薬に、農薬が入ってはならないというのは“言わずもがな”で、基準設定がないから残留してよいということではない。残留農薬が検出されたような場合、第一義的には製造した企業に責任があるが、国民の健康を守る立場から国もすみやかに対応する」(医薬局審査管理課課長補佐、吉田佳督さん)と話しており、今後の対応が注目されるところです。
中国からの輸入が圧倒的
漢方薬の本場中国では、山間部などで薬草の採取・栽培が盛んに行われており、大規模な生薬市場で良質な物からニセ物まで、三千種とも四千種ともいわれる生薬が流通しています。日本では、現在、漢方薬の原料として使用されている生薬はおよそ百二十種ほど。中国からの輸入が圧倒的に多く、国内自給率は一割にも満たないといわれています。漢方薬メーカーによっては、中国国内に合弁会社を設立して、採集・栽培を細かく指導するほか、中国を出国する前に残留農薬も検査するなどの対策をとっている企業もあり、生産・買い付け・輸入などの体制は製薬企業によってさまざまのようです。
また今回、食品分析センターが分析したような煎じて(煮出して)服用する生薬での流通はごく少なく、多くは粉末状や顆粒状になったエキス剤が広く普及しています。漢方薬は基本的に複数の生薬を組み合わせて処方・製造するというのが特徴で、実際にはサンシュユだけを服用するようなことはほとんどありません。漢方薬市場の約八割が、医師の診断により処方され、健康保険が適用される医療用で、市販薬は二割程度と見られています。
(新聞「農民」2003.6.23付)