朝から釣りに行っていた親父とおじさんが大漁だと喜びながら帰って来た。

「早速捌きますねー」と嬉しそうに言うおじさんとおふくろの「ありがとうございます」の声が重なって、男も料理できるというのはいいと暗に聞こえるおふくろの心の声に苦笑する。

もしおじさんが居なかったら、きっと俺にも手伝えとか面倒な指令が来た事だろう。

何でもかんでも天才だからと・・・いや、そんな事はないな。

きっとおじさんが居なかったら親父はゴルフだろうし、魚を釣ってもボーズに違いない。

今一瞬変な想像をしてしまった。

琴子達親子が来てからというもの、どうも調子が狂う。

部屋にでも行こうと思ったら、琴子が「入れ食いって何~!?」と裕樹に質問している。

裕樹に聞くな、そんな事!!

おじさんが「魚がよく食いつくって事だな」と解説している中、ふと思いついて「琴子、アイス持って来て」と頼んだ。

琴子は俺の声に反応して「うん、今持って来るードキドキ」と冷蔵庫へ向かって駆けて行く。

そして冷凍室をゴソゴソやった後、琴子が厳選したらしいアイスキャンディが俺に手渡された。

はい、入江くんラブラブ

それを手に取って袋から出した後琴子の目の前に掲げる。

「欲しい!?」と聞くと、琴子は素直に首を縦に振った。

が、慌てて「だ、大丈夫。入江くんが食べたいって言ってたからあせる」と首を振りながら辞退するが、もう一度「欲しい!?」と軽く揺らしながら聞いたらまた首を縦に振った。

「じゃあ食えよ」と口に着きそうなところで静止して食いつくのを待つ。

琴子が恐る恐るアイスと俺を見比べる。

「ほら、垂れる」と言ったらパクッと本当に食いついた。

アイスの棒から手を離し「これが入れ食い。分かったか!?」と言ったら、琴子が真っ赤な顔をしながらアイスを咥えたままコクコクと頷いた。

おふくろから「お兄ちゃん!!」と怒られるが、琴子が咥えたまま「ひゃひほーふへふ」と多分大丈夫と言いたい何かを口にする。

それを聞いておふくろも次の言葉を被せるのを止めた。

琴子はアイスの棒を掴んで口から離すと「ありがとう、入江くん」とお礼を言ってキッチンに向かう。

お礼・・・言うんだな。

明らかにからかったと分かるのに・・・。

胸の中がモヤモヤしてスッキリしたく、冷蔵庫に向かう。

俺が麦茶を取り出すタイミングでおじさんに声をかけられドキッとした。

「直樹くん、今日は刺身がいいかな。それとも天ぷらの方が好きかい!?」と聞かれ、ふと『煮ても焼いても食えない』という諺が頭に浮かんだが敢えて無視して「つい冷たい物を食べてしまうので天ぷらとか食べたくなりますね」と無難に答えておいた。

その日の夕食は刺身・焼き物・天ぷらと実に豪勢だったが、俺は天ぷらを咥える琴子の唇の動きが気になって仕方がなかった。


それから4年後、一番食べたかった入れ食い状態の琴子を腹いっぱい収めた時ようやく満腹が幸せで危険だと理解したのだった。

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青江くん書きたい症候群
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