腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(07・日) | no movie no life

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・・・映画を見て思ったことをツラツラと。ネタバレです。

かなり昔に書いたのも。

タイトルはシュールだけど、中身はもっとその上を行く。


交通事故で急死した和合夫妻の葬式の日、女優を目指して上京していた長女(佐藤江梨子)が戻ってきた。平穏に暮らしていた長男(永瀬正敏)、その嫁(永作博美)、次女(佐津川愛美)たちに、緊張感が走る。本谷有希子の戯曲の映画化。


女たちのキャラクターがとにかく際立っている。


大胆不敵、自己中、過激、奔放、高い自尊心、そして女優の実力がある勘違いしている女。自分に都合の悪いことは全部他人のせい。しかし、抜群のプロポーションと美貌。
彼女の登場シーンは息を呑む。田舎の村に全くそぐわない。彼女の服、髪、化粧、言動。いや、存在そのものが。とっても浮いていて、目が痛くなる。こんな人間は狭い閉鎖的な土地にいるべきではない。村中の男が彼女に狂わされる。まるで羽衣伝説の天女のような地球外生物だ。「私は絶対女優になるの!」しかし、彼女は戻ってきた。全身全霊で演じてるサトエリは見事。新境地を開いたのではないかな。あのプローションはホントに悪魔のようだ。


一方妹は、姉にことごとくいじめられながらも、全てマンガのネタにして投稿する強かさを持つ。姉の一挙一動に怯えながらも目が離せない。麻薬のように姉にハマる。いや、もしかしたら蜘蛛のように罠を張っているのかも。メガネの下に潜む大きな目はある意味、姉より怖い。


そして兄嫁は、天然ボケでお人好し、気を遣いすぎて自滅するタイプ。いじめられてもそれに気がつかない、これまた見ていて痛い存在。手にしたと思った幸せはするりと逃げ、最後まで哀れだ。


そんな目を背けたくなる人間関係の中で、弱い男は脱落してゆく。食って食われて、真に強いものが生き残る。なんせ刃物を振りかざして格闘するわけだから、こゆーいブラックだ。「やっぱお姉ちゃんは、最高に面白いよ。そんなに面白いのに、私の前に出てきたらダメだよ」「あんた、私をネタにするんなら、最後まで見なさいよ!」


だけど、それが観ていて面白い。人間は、神様のような一転の曇りも無い存在よりも、毒をもつ女王蜂が好きなのだ。強くて悪いものに振り回されたい。そして、人様の幸福よりも不幸が楽しいのだ。古来からヒトは喜劇よりもギリシアの悲劇やシェイクスピアに惹かれている。


・・・しかし、こんな強かな人間たちになれない。勘違いであれ、自分を信じ続ける力も、ない。
所詮、私はこういうモノを見て、自分自身を照らし合わせ反芻するしかない「腑抜け」にすぎないんだね。


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