おんがくエンドレス (『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック) / 松田彬人 | A Flood of Music

おんがくエンドレス (『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック) / 松田彬人

 前クールで放送を終了したTVアニメ『響け!ユーフォニアム2』のオリジナルサウンドトラック『おんがくエンドレス』のレビュー・感想です。1期はリアルタイムでは観ていなかったのですが、2期の前に再放送をやっていたので2クール続けて観ることができました。

TVアニメ『響け!ユーフォニアム2』オリジナルサウンドトラック「おんがくエンドレス」/ランティス

¥4,320
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 音楽は松田彬人さんによるものなので記事タイトルにも代表として名前を載せました。サントラ本編であるDisc 1では作編曲を、劇中で披露された吹奏楽曲が中心のDisc 2&3では編曲をメインで手掛けた方のようです(全曲ではないので「メインで」としました)。

 演奏は洗足学園音楽大学のフレッシュマン・ウインド・アンサンブル 2014(指揮:大和田雅洋さん)によるものです。また、音楽プロデューサーは斎藤滋さんで、選曲やコンセプトの面で尽力された方のようです。

 この紹介で大きくは間違っていないと思いますがクレジットを読み違えて変なことを書いていたらすみません。細かいところは曲毎のクレジットをご覧いただければと思います。

 1期のサントラ『おもいでミュージック』(2015)に続いて今作も大ボリュームで満足でしたが、3枚組で曲数も多く全曲レビューをすると長くなってしまうし吹奏楽やオーケストレーションには明るくないので、新譜ですが旧譜レビュー時のように数曲抜粋スタイルでいきます。


Disc 1

 Disc 1は松田さんによるオリジナル楽曲が収録された言わばサントラ本編です。OPとEDのTV sizeも収録されています。OPとEDについては この記事 でも少しふれたのですが、Disc 3に吹奏楽曲版が収録されているのでそこで改めてふれます。また、26.「響け!ユーフォニアム」(曲名)についてもDisc 2でまとめてふれます。


 Disc 1で特に気に入った曲を収録順に挙げると、05.「青春なる日常」, 06.「謳歌する若者」, 13.「必然という冷酷」, 18.「重なる経験」, 19.「そこに兆しは存在する」, 21.「落ちきった心情」, 22.「夏の到来」, 23.「突き進むべきである」の8曲です。

 作中での使われ方は観返してみないとわかりませんが、松田さんと斎藤さんによるライナーノーツ(以降LNと表記)に収録曲のほとんどの解説が載っているので、そこの記述からアニメの場面を思い浮かべることはできます。ここに挙げた曲だと05, 06, 18, 19には解説あり。

 05.はLNにもある通り、朝の空気を纏った爽やかで前向きな曲。続く06.はストリングスによるメロディアスな曲で、2曲続けて瑞々しい未来を想起させる若さに満ちていると感じます。18.も青春を感じられるような曲ですが、05.や06.よりは成熟しているように聴こえて違いが楽しい。

 13.はベートーヴェンの「月光」を彷彿とさせる暗いピアノの曲。やるせなさやもどかしさに支配されそう。21.も暗い曲ですがこのアルバムには珍しく電子の質感が強いです。20.「陰る心」からつながっているのだと思いますが、こういう毛色の異なる曲が出てくるとハッとさせられますね。

 19.はLNに使用場面が書いてありますが、6話「あめふりコンダクター」での使用曲です。繊細なタッチで静かに幕を開け徐々に厚みが増していくという展開には、タイトル通り"兆し"を感じました。

 22.はご機嫌なパーカスと笛の音が印象的な曲で、まさに夏といった趣。続く23.はストリングスとピアノを軸に進む曲ですが、その間隙を縫うようにこまごまとした音が入ることで可愛らしい仕上がりになっているところが好きです。
 

 ただでさえ劇伴というのは作品に対するバランスが難しい仕事だと思いますが、音楽が主軸の作品だと更に難易度が跳ね上がることでしょう。作品や主軸となる音楽を食ってはいけないし、かといって作曲家の顔が見えないような味気ないもので良いというわけでもないと思います。

 音楽が全く気にならないものこそ最高の劇伴だと評価する人もいるでしょうが、個人的には劇伴は劇伴である程度印象に残るもののほうが好きです。端的に言えば「サントラを買おう」と思わせられるほどのインパクトは欲しいということです。

 この意味で本作のインパクトが大きいかといったら必ずしもそうではない気がします(購入動機はどちらかというとDisc 2&3にあったので)。しかし改めて一つの作品として聴いたことでこんなにも粒揃いだったのかと発見ができました。こういうパターンもあるからやはり劇伴は難しいと思う。

 場面展開や人物の行動・心情と上手くリンクさせることで、作品を観ながらストーリーの少し先を予想するのと同じように、初めて聴く劇伴でも脳内で描いた期待通りに展開する曲というのがベストではないかと思います。"気になる"と"気にならない"の境界を綱渡りするようなものとでも言いましょうか。



Disc 2

 Disc 2は作中で披露された吹奏楽曲を中心に構成されています。クラシックにポップスに松田さんによるオリジナル曲までバラエティ豊かなのは前作『おもいでミュージック』と同じです。前作では指導前と後のVer.がそれぞれ収録されているなどの面白い試みがみられましたが、今作にも(Disc 3とあわせて)Ver.違いによる妙を楽しめるような仕掛けが施されています。


クラシック

 まずはクラシック(ここでは単に年代の古い曲とします)をみていきます。今回収録されているのは、02.「チャイコフスキー「交響曲第4番」より終楽章」, 03.「ダッタン人の踊り」, 04.「パガニーニの主題による狂詩曲」, 08.「アメリカンパトロール」の4曲です。

 作中では02.は清良女子の、04.は大阪東照による演奏でTVから流れてきたものです。LNによるとこの2曲は指揮者の大和田さんが推薦したもののようですよ。08.は麻美子お姉ちゃんが小学生時代に披露した曲ですね。

 あえて残しましたがここでは元々好きな曲である03.「ダッタン人の踊り」を取り立てます。鎧塚先輩のトラウマ楽曲という扱われ方で若干凹みましたが、ある意味いちばんおいしい使われ方なので良しとします。笑

 個人的には「韃靼人の踊り」と漢字表記がいちばん好きなのですが、ボロディン作曲のオペラ『イーゴリ公』(第2幕)の曲です。この曲の存在は坂本真綾(feat. Steve Conte)の「THE GARDEN OF EVERYTHING ~電気ロケットに君をつれて~」(2003)で知ったのですが、旋律が日本人好みというか非常にキャッチーな曲ですよね。

 LNによるとオーボエとフルートが際立つ曲ということでの選曲らしいですが、作中での交錯する人間模様を思い返しながら聴くとよりドラマチックに響きます。何にせよみぞれと希美の仲がこじれたままにならないで(この曲がトラウマで終わらないで)良かったです。


ポップス

 次にポップス(ここでは元々吹奏楽曲ではない曲とします)を紹介します。今回は01.および06.「学園天国」, 05.「君は天然色」, 07.「宝島」の3種4曲です。どれも曲名で検索するとサジェストに吹奏楽が出てくるので定番なのでしょう。

 01.(06.)と05.はどちらも学園祭での使用曲で、前者が持つ弾けるような勢いも後者が持つ旋律の美麗さも学園祭の空気によく馴染むと思うのでナイスな選曲だと思います。フィンガー5に大瀧詠一と、両曲共に知名度が高いのでお客さんウケも考えられていますね。

 07.はTHE SQUAREの曲でオリジナルも聴いたことはありましたが、吹奏楽アレンジ(編曲:真島俊夫さん)でも有名だとは知りませんでした。作中だと7話「えきびるコンサート」で披露されていましたが、この曲を象徴するのは何と言っても部長の晴香によるバリトンサックスソロですね。痺れるの一言。


オリジナル

 残りは11.「プロヴァンスの風(関西大会突破 Ver.)」を除いて松田さん作のオリジナル楽曲なのですが、その「プロヴァンスの風」と「三日月の舞」に関してはDisc 3との兼ね合いもあるのでそこでまとめて紹介します。

 ここでは「響け!ユーフォニアム」(曲名)を取り上げます。LNにもありますがこの曲は1期の劇伴である「重なる心」が元になっていて、聴き比べると成程といった感じです。ユーフォニアムが旋律を担ったことで美しさや優しさが際立ち、こんなに良いメロディだったんだと気付かされました。

 これを吹奏楽曲にしたのがDisc 3のWind Orchestra Ver.で、最終回ED用に再編曲したのがDisc 1のLast Ver.、ユーフォソロ曲として作中であすか先輩が披露したのがDisc 2の朝もや Ver.と久美子と二人きり Ver.で、都合4パターン収録されています。吹奏楽アレンジも煌びやかで素敵ですが、やはりユーフォだけのVer.がいちばんグッときました。

 朝もや Ver.と久美子~ Ver.は吹いている状況が違うので録音も別にしているという徹底ぶりですが、同じ楽器で同じ旋律なのに両者で全然印象が異なるのが凄いです。実際の演奏者は別だということを抜きにしても、誰に向けているかというのが明確になるだけで音楽が特別な力を持つようになるというのが表現できていて非常に素晴らしいと思います。

 この曲はまさに表題曲(久美子~ Ver.にいたってはサブタイまで)で、纏わるエピソードもワケありなものですが、この曲を聴くとやっぱりこの作品はユーフォニアムを軸に回っていたんだなと思えるので大好きです。



Disc 3

 Disc 3は2の補足+ボーナストラックという感じですかね。ここまでに何回かDisc 3で改めてふれると記述した楽曲がありますが、それらについて紹介していきます。


 まずはOPとEDの吹奏楽アレンジである02.「サウンドスケープ(TRUE & Wind Orchestra Ver.)」と05.「ヴィヴァーチェ!(Wind Orchestra Ver.)」について。この試みは前作にもありましたね。

 Disc 1の冒頭でリンクした記事でも書きましたが、「サウンドスケープ」はイントロが素晴らしいと思っています。元のポップ感と比べると02.は上品な響きになっていてギャップが面白いです。「ヴィヴァーチェ!」はボーカルなしになっていますが、吹奏楽アレンジでメロディの良さを再確認できました。特にAメロとサビ後半("ヴィヴァーチェ!歌え"~)が好きなのです。


 そして「プロヴァンスの風」と「三日月の舞」ついて。コンクール課題曲&自由曲として1期からお馴染みの2曲ですね。今回はDisc 2の11.と12.に関西大会突破 Ver.が、Disc 3の03.と04.に全国大会銅賞 Ver.が収録されており、支部大会の金と全国大会の銅ではどういう差があるのかという問いに挑むことができます。

 LNによると、関西大会突破 Ver.にはプロ奏者を参加させることで差別化を図っているようです。クレジットにもDisc 2のものに関しては"特別編成チーム"と書かれています。

 「プロヴァンスの風」は田坂直樹さん作曲のマーチで、リアルに2015年度の全日本吹奏楽コンクールで課題曲に指定された楽曲。エキゾチックな情景が浮かぶ勇壮でエモーショナルな曲かと思いきや、途中からガラリと雰囲気が変わって柔らかく舞うような印象になるのが面白いです。風が渡っていく様がありありと見えるよう。

 「三日月の舞」は松田さんが『響け!ユーフォニアム』のために書き下ろした吹奏楽曲です。この曲に関しては当然かもしれませんが1期の場面のほうが多く浮かんできまして、麗奈のトランペットソロを聴くと美しいと思うけれど香織先輩の顔がちらつくし、久美子が何度も練習していたユーフォが難しいところを聴くと頑張れと思っちゃう。ここのスネアが入ってくるところからがいちばん好きです。

 さて問題の演奏の差ですが、聴けば聴くほどどちらが良いかわからなくなってしまいました。確かに表現の幅が広いというか確実に楽曲を乗りこなしているなと感じるのは関西大会突破 Ver.ですが、統一感というか良い意味で各楽器が際立って聴こえ過ぎないという点では全国大会銅賞 Ver.のほうが好きです。

 何にせよ、アニメでは全国大会での演奏は描かれなかったのでここで聴くことができて満足です。特に「プロヴァンスの風」は『おもいでミュージック』収録時はあまりピンとこなかったけれど本作でやっと良さがわかりました。



 以上濃厚な3枚組でした。レビューや感想というよりは単なる紹介が中心になってしまったかもしれませんが、どのみちあまり専門的なことは言えないのでこれで良しとします。

 ここまでにも度々ふれていますし斎藤さんによるスタッフコメントにも書いてあることですが、『響け!ユーフォニアム』のサントラは同一楽曲のユニークな比較を同一CD内で堪能できるところが面白いと思います。

 『おもいでミュージック』では指導前と後のVer.を両方収録して差をみせたり、オーディションで落ちた人間によるソロが挿入されたifを楽しめたりしましたが、『おんがくエンドレス』でも支部大会の金と全国大会の銅という完成した次元に於ける差を提示し問題提起をしたり、演奏する状況によって同じ曲がどう響くかというところにフォーカスをあてたりと、制作陣の拘りが感じられます。

 劇場版はTVシリーズ準拠ということで観ていないのですが、通して観直したい時には便利かもしれないし円盤買っちゃおうかな。サントラの『Reflection of youthful music』(2016)だけ持っているのも何だかなぁと思うし。