恋海 ソウシ夢 「わたしの知らない桜」 完結 | 夜の羊の本棚

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ソーシャルゲーム”恋に落ちた海賊王” ”戦国LOVERS”の夢小説を書いています。

更新不定期。

小説らしい文章スタイルを目指しています。



5月12日 加筆修正



しばらく進んだ二人だが、行けども渓流には行きつかない。このころにはカイトにもわずかだが流れの音が聞こえるくらいになり、ソウシの言うとおりどこかにはあるはずなのだが、なかなか見つけることができずにいた。音が反響して、どこから聞こえてくるのか方向を探ることが難しい。しかし来た道の方にあるわけはなく、あるとすればこの先しかない。

「もう少しだと思うんだけど」

「そうだな」

だがそんなことを言っているうちに、とうとう紐の長さが足りなくなってしまった。

「これ以上は行けない、か・・・・」

はあ、と溜息をついて、ソウシがしゃがみこむ。
せっかく時間をかけて登りここまで来たのに、このまま帰るしかないと言うのが悔しい。
そしてそんなことを考えていると、急に可笑しさがこみ上げてきたのか、小さく笑い声を洩らした。
先ほどは見つからなくてもいいと思ったカイトも、残念に思ってしまう。

「せっかくリアを喜ばせられると思ったのになあ」

「そうだな。まあこれもいい思い出になるじゃないか」

悔しい、という気持ちを隠しきれずに言うソウシに、カイトも苦笑して答えた。名残惜しいが、引き返そうとカイトたちが踵を返しかけた時、突然二人に話しかける声がした。


「お兄ちゃんたち、何してるの?」

まさかこんな時間にこんな山の奥深くで誰かに話しかけられるとは思っておらず、ソウシもカイトも飛び上がらんばかりに驚いた。声のする前方を見てみると、そこには小さな女の子がいる。

歳は7,8歳くらいだと思われる、型口で切りそろえられた黒髪に、前髪も眉の当たりできっちりそろえられている女の子は、ソウシたちの見たこともない異国風の服を着ていた。

「なにしてるの?」

「え…俺たちは、桜を探しに…」

そう繰り返す女の子に、我に返ったソウシが思わず質問に答えるのを、カイトがあきれた様子で切り返す。

「そうじゃないだろう。・・・・君の方こそなにをしてるんだ、こんな山奥で。」

みたところ、保護者らしき人は見当たらない。こんな山奥に子供が一人でいるなんて、どう考えてもおかしい。まさか、捨てられたのか―――

「私は…ここから出られないの」

「出られない?迷子になったのか?」

「…うん」

「じゃあ、俺たちとおいで。今から山を降りるとこなんだ」

「うん!」

なぜこんなところにいるのか疑問は残るが、嬉しそうに返事をする女の子を連れて、とにかくソウシたちはきた道を引き返して行った。

道中、女の子はいろいろな質問をした。ソウシたちはどこからきたのか、街ではなにをしているのか。ここでも主に話すのはソウシだった。カイトは、決して悪いやつではないのだが、初対面のあいてには鋭い印象を与えるらしい。

ソウシがなぜ山に来たのかを話した時、特に桜のことを話すと、女の子はとても興味深そうに聞いていた。

「じゃあ、そのおんなのこのために、枝をもっていくの?」

「そうしたかったんだけどね、見つからなかったんだよ。」

女の子にあわせてゆっくりと歩きながら、ソウシは話をした。道はでこぼことしている上に草が生い茂って歩きにくいが、不思議とつまずいたりせずついて来た。

「ふーん…」


女の子は、そう言ってしばらく考えるそぶりを見せた。
不思議な子だと、ソウシたちは思う。この子の着ている鮮やかな紅い着物は、まるでこの国の子供ではないようだ。
折を見てどこから来たのか聞きださなくてはいけない。
そんなことを考えていると、やがて女の子は顔をあげて、

「桜の花、見たい?」

ソウシの目をまっすぐに見つめて訊いてきた。
突然、この歳の少女がするにはあまりにまじめな表情で大人びた顔で言うものだから、ソウシはどきっとしてしまった。

「うん。でも、もうこんな時間だし、また今度かなあ」

「私、どこにあるのか知ってるよ」

え?と思うやいなや、既に左に数歩かけ出した少女はソウシとカイトをふりかえり、


「こっち」

口のはしをあげるようにして笑って言うと、みるみる奥へと行ってしまった。

「ちょっと待って!あぶないよ!」

「っ、おい!」


そう言って迷わず紐を投げ出してかけ出すソウシをカイトが止めようとしたが、間に合わない。投げ出された紐とソウシの背中を見比べると、

「くそっ」


そうつぶやいて覚悟を決め、ふたりのあとを追って彼も山の奥へと走り出した。







「待って!戻るんだ!」

そう叫びながら追いかけるソウシのさらにあとから、カイトがつづく。少女はソウシの声などまるで聞こえないように、どんどん奥まで入って行き、そのうしろすがたは近づくことなく常にふたりから一定の距離先をゆく。


追いかけながら、これはおかしいとカイトは思う。普通少女が走ったくらいで、自分たちが追いつけないはずがない。
そのことにもソウシは気づいていないだろう。あまりにも抜けすぎではないかと内心文句をいいながらも、カイトはふたりを見失わないように必至で追いかけた。


その後道はゆるく下りになり、カイトは気がつくと面前に迫っていた垣根のようなものに止まることができずにつっこんだ。

「いって、」

すぐに広い場所に抜けた。細い枝がほおや手の甲をかすった痛みで顔をしかめながら前方をみると、立ちすくむソウシの背中がある。

「ソウシ、おまえは」

小言を言おうと開けた口から、だが言葉が発せられることはなかった。



ソウシたちがたどり着いた場所は、今までの森と違い開けた空間になっていた。
そしてその中央に、大きく立派な桜の大木があった。樹齢何年かとおもわれるほど太く育った幹の上には、満開の桜の花が咲き乱れている。その大きな桜の木を、それよりもずっと小さな桜の木々が取り囲むようにして生えていた。

一面に美しく咲いた桜の花が、花弁を地面へと散らしてゆく。こんこんと尽きることのない湧き水のように、はらはらと地に落ちては、薄紅色の絨毯を作っていく。
まるで誰かが作り上げたような、絵のように幻想的な風景に、二人はただただ言葉を失うばかりだった。

噂に聞く花が、こんな見事なものだとは。しかしここまで来たものはそう多くはいないのだろう。
カイトが、桜の木から視線をそらさずにそっとソウシの横まで歩み寄る。二人はなにも言わずに、静かにさくらを眺め続けた。













「本当は、一番大きな木から枝をとってきたかったんだけれど、そうするのは何となくはばかられてね。そばにあった小さい木から一本折って、リアへのお土産にしたんだ」

「その後は、どうやって帰ったんですか?」

私がそう聞くとソウシさんは、

「不思議なんだけど、帰る時になったら、その桜の一体のすぐ近くに渓流がちゃんとあったんだ。たどって下流にいくと、私たちが最初に結んだ紐の端があった。でも確かに、初めに着いた時はこんな近くになかったのに・・・・もっと驚いたことはね。山を降りたら、次の日の朝になってたんだ。家に帰ったら、いつも厳しくて怒ってばかりの両親が一晩中寝ないで心配してたみたいで、すごく申し訳ない気持ちになったよ」

「その年だった。リアの病状が一向に良くならなくて、そうこうしているうちに病名がはっきりして・・・・。3人で一緒に来よう、って話をしていたんだけれど、結局かなわなかった。・・・・でも、こうやって君とここにまた来ることができて、本当に良かったって思ってる」

そう言ってソウシさんは、私の方を見て笑みを浮かべた。
ソウシさんが昔の話をする時、”リア”ととても大切そうにその名を呼ぶのを聞くたび、ほんの少しのさびしさが私を襲う。私の知らないソウシさん。
でも、リアさんがいてこそ今のソウシさんがいるわけで。いろんなことがあって、たくさん悩んで苦しんで、こうして巡り合うことができた。リアさんのことを思うと素直に喜んで良いものか、後ろめたくもあるが、こうして今彼の隣にいれることを、うれしく思う。

「長々と話してしまってごめんね。疲れたろう?」

「いいえ、そんなことないです。・・・・私に、大切なお話しをしてくださって・・・・、ここに連れてきてくれて、ありがとうございます」


そう答えると、私はソウシさんから桜の大木へと目を移した。

その大木は、枯れてしまっていた。周りにある幾本もの満開の桜に囲まれて、ひっそりと息を引き取ってしまったかのようだった。

「私も、見たかったです。この花が満開の桜の花をつけているところを・・・・」

「そうだね。でももしかしたら・・・・」

そう言って、少しばかりためらうようにしてるソウシさんを見つめる。

「こんなこと言ったら、君はおかしいと思うかもしれないけれど・・・・、あの時にはもう、この木は枯れてしまっていたのかもしれない・・・・、なんて、やっぱり変かな。それを見られたくなくて、桜が私たちをたどり着かせないようにしていたのかもしれない」

「・・・・その、女の子がもしかしたら・・・・?」

「君も、そう思うかい?」

そう言って、また桜の木を見つめるソウシさん。
懐かしそうに目を細めるソウシさんの横顔を見て、私は胸がいっぱいになりなにも言えなくなってしまう。さびしそうに微笑む彼を安心させたくて何か言おうとしたけれど、うまく言葉になってくれない。私には、彼の心の痛みを聞くことはできても、それを消し去ることはできない。
今も、きっとこれからも。彼の痛みは、彼だけのものだから、私も他の誰も、立ち入ることは決してできない。言いたいことは山ほどある気がするのに、そのどれもがふさわしくないような気がして、私は言葉を探すのをやめた。
その代わりに、彼の横顔を見上げて、そっとほほえむ。安心してください、私はいつでもここにいますよ、と言う気持ちをこめて――――











書き終わりました~ε=(´Д`*)
これが長いんだか短いのか、よくわかりません。
設定も、なるべくソーシャルに出ているものはそのまま変わらないようにしたつもりだったのですが、改めて完結を書いてみて「リアの病気って、いつ判明したんだっけ、タイミング違くね?」って思いました(汗
だとしたらすみませんm(_ _)m

女の子は、紅い和服を着ているのをイメージしました。そもそもさくらはヤマトの花だと思うので・・・・、なんでこの町に来たのかわかりませんが、異国の地で一人でさみしかった、ということにしておきます。

オカルト話が好きで良く読むのですが、時間移動の話は多いです。ほんの数時間だったり、会社から帰ってきたら家につくころには2日もたっていて、家族が心配していた、という話だったり(嘘かほんとか、という突っ込みはなしで!)
山の中では、怖い話も多いですが、迷っていて親切に道案内されたりなどほのぼの系も多いようです。もっと怖いお化けだしかけましたが、話にそぐわないので女の子にしました。


ここまでつたない文を読んでくださった方々、ありがとうございます。次は何を書こうか・・・・