大きな背中と小さな手                             紅林 千賀子



先日の日曜日、仕事が長引いてしまい、家路を急いでいた時の事でした。

改札口を出ようとしたら、ある親子の姿が目に入ったのです。

お父さんは車椅子に乗っています。
横で、幼稚園生くらいの男の子がちょこまか走っています。

辺りを見渡しましたが、お母さんの姿はありません。

そして車椅子を運転するお父さんの膝の上には、
女の子用の大きな紙おむつが二袋、乗っていました。
どうやら、下の妹のために、
お父さんとお兄ちゃんは、おむつを買ってきたようなのです。


エレベーターの方面に向かうと、直ぐにボタンを押すお兄ちゃん。
ちゃんと勝手が解っています。


エレベーターを降り、地上に着くと、ピューと冷たい風。

「おい、あんまり走るな!」

でも、お父さんの声は、お兄ちゃんには聞こえないどころか、
車椅子のお父さんの背中をボーンと押し、
まるで「車椅子ごっこ」でも楽しんでいるかのように・・・
瞬く間に、雑踏の中へ消えて行ったのでした。

もしかしたら、二人とも、心配しながら待っているお母さんの笑顔が
待ち遠しかったのかもしれません。

憧れの大きな背中と元気いっぱいの小さな手。

ずっと前から約束してきたかのように 固く結ばれた父と子の絆。

今ある現実がどうであれ、その定めがどうであれ、
あるがままを丸ごと受け入れ、
一瞬一瞬を丸ごと満喫しているようでした。



冷たくて透き通った空に、星がとても綺麗な夜でした。