バングラデシュの地方の母子保健 | Yoshitaka's blog

バングラデシュの地方の母子保健

JICAが行っている、バングラデシュの地方の母子保健プロジェクトの評価にほんの少しだけ関わらせて頂くことになった。


母性保護サービス強化プロジェクト
http://www.jica.go.jp/project/bangladesh/0602298/


バングラデシュでは母子保健の改善、とりわけ、国連ミレニアム開発目標にあるように、乳幼児や妊産婦の死亡率を下げるべく、政府が主体となって、Skilled Birth Attendant (SBA)と呼ばれる人々を養成し、各地域で活動している。SBAは出産介助や母親の産前産後の検診、またそれ以外の様々な保健活動を行う。バングラデシュのような途上国では、特に僻地においては、医師や保健師の数は圧倒的に不足している。従来は、Traditional Birth Attendant (TBA)と呼ばれる、伝統的「産婆」が出産介助を行なってきた。しかしながら、彼女たちは正規の教育を受けていないことが多く、医学的には有害な迷信的習慣に束縛されていたり、衛生に関する知識が不足しており、例えば、消毒されていない不潔な刃物で臍帯を切断するために、母子に感染症を引き起こしてしまう、などといった問題を起こすこともあった。政府は、TBAに教育を施して知識・技術の向上を図ろうとしたことがあったものの、あまりうまくいかなかったようで、TBAとは別に、SBAを養成することになった。結果として、SBAが広く受け入れられてゆくと、TBAは次第に淘汰されてゆくことになる。ただ、TBAの再教育に関しては様々な意見があるようだ。


SHARE 国際保健の基礎知識 TBA
http://share.or.jp/health/library/knowledge/tba.html


しかしながら、政府が運営するSBAだけではカバーしきれない地域も出てくる。そこで、NGOやJICAなどがp-CSBA (private Community-based Skilled Birth Attendant)を養成し、政府系SBAの補完的役割を果たすことを期待されている。


現地の様子を見せてもらったり、p-CSBAにインタビューを行ったりするために、これまでに、Narsingdi、Pabna、Shahzadpurを訪れた。Narsingdiはダッカから車で2時間くらいで行けるが、PabnaやShahzadpurは車で7~8時間ほどもかかる。それでも、昼に出れば、その日の夜には到着できる。首都ダッカから近い所ではこうした取り組みも行いやすいだろうが、ダッカやその他の大都市から遠く離れた土地、つまり、1日、2日では行けないような土地で行うのは容易ではないだろうから、そうした土地の医療・保健はどうなっているのだろう、と思った。


さて、Shahzadpurを訪れた際、あるp-CSBAから話を聞くことができた。彼女はJamuna川の広大な中洲地域で活動している。ここには政府系SBAはおらず、NGOやJICAなどのp-CSBAがその穴を埋めている。p-CSBAには出産介助のための道具、医薬品などは提供されるが、仕事としてはほとんど収入にならず、ボランティアベースである(他に職業を持っていたり、夫に養ってもらっていたりする)。事実、彼女もp-CSBAとしての収入がほとんど無いことは苦しいと言っていたが、それでもなぜ、その仕事を続けるのか、と問われれば、「その地域で必要とされているから」と答える。「自分がやらねば誰がやる」という使命感を持って活動しているのだと感じた。


政府系・非政府系含めて、ShahzadpurにおけるSBAの活動拠点を確認してみると、ある程度全体をまんべんなくカバーしてはいるものの、まばらだな、という印象だった。その時、僕は自分の「原点」のようなものが、ふっと心に浮かんだ。日本ならば(必ずしも100%の信頼ではない場合があるにせよ)医療サービスが受けられないことはそれほど心配しなくてもよいが、途上国の田舎においては、それは決して「当たり前」ではない。まだバングラデシュは(少なくとも一部の地域では)途上国の中でも先進的な取り組みが見られるマシな部類なのかもしれないが、「エビデンス」を云々する前に、このような僻地の村に必要最低限の医療を行き渡らせること自体が明らかすぎる要請ではないのか(もちろん、予算制約ゆえに効果のエビデンスを議論しなければならないことは承知している)。そのための手助けをしたい。そう、もう一度心に思った。



<Narsingdiにて>


Yoshitaka&#39;s blog-Narsingdi GoB SBA

政府系SBAによる、妊婦とその家族への産前産後の基礎知識に関するセッション。
日本から、恵泉女学園大学の大橋正明ゼミの学生さんたちも見学に来ていた。


関連記事
国際協力NGOシャプラニール 菅原駐在員のブログ
http://www.shaplaneer.org/blog/sugahara/2012/01/post-32.html


イラストの描かれたカードを使い、母親には栄養を十分とらせることや衛生に関する知識を教えていた。「牛に餌をたっぷり与えると、牛乳がよく出るようになります。人間も同じです。」「お客さんが来る日には、家の中をきれいに掃除して出迎えますね。新しい赤ちゃんを迎える時も、家の中をきれいにして、手を洗い、お湯を沸かして迎えましょう。」という話をしているのを聞いて、うまい説明だと思った。


Yoshitaka&#39;s blog-Narsingdi 手術室


病院の手術室。日本の手術室と比べると設備面・衛生面で見劣りするが、それでも一応、一通り揃っている。


Yoshitaka&#39;s blog-Narsingdi 5S


病院の薬局に掲げられた"5S"のポスター。日本語ならば「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」だが、英語にすると、それぞれ、"Sort" "Set" "Shine" "Sustain" "Standardize"となる。分かりやすいようにするためか、日本語とは少々順番が変えられている。



<Pabnaにて>


Yoshitaka&#39;s blog-Pabna SBA training


Pabnaにおけるp-CSBAのトレーニングセッション。I博士によると、彼女たちは最初はあまり喋らなかったが、今では積極的に意見を発言するようになっており、このプロジェクトの副次的効果である「女性のエンパワーメント」のanecdotal evidenceなのだと言っていた。



Yoshitaka&#39;s blog-Narsingdi 分娩室


病院の分娩室



Yoshitaka&#39;s blog-Pabna 病院


病院の近くでは牛がのびのびと草をはんでいる。



<Shahzadpurにて>


Yoshitaka&#39;s blog-Shahzadpurへの夕日


Shahzadpurへと向かう道の夕日



Yoshitaka&#39;s blog-Shahzadpur FGD


p-CSBAの皆さんに集まってもらい、意見交換・問題点の提起などをしてもらい、活動の改善につなげる。



Yoshitaka&#39;s blog-Shahzadpurの子供たち


Shahzadpurの子供たち



Yoshitaka&#39;s blog-Shahzadpur 民家


民家



Yoshitaka&#39;s blog-Shahzadpur 牛小屋


牛小屋。「古き佳き時代」の面影、と言えば聞こえは良いが、大量の蠅が飛び交い、衛生的な環境とは言い難い。ジャーッと音がして振り返ると、牛が突然放尿し出した。