米国産婦人科学会(ACOG)は12月22日、子宮頸癌スクリーニングと予防に関するガイドライン改訂版を発表した。同学会ホームページに掲載している。

 今回発表された改訂版は、米国食品医薬品局(FDA)が承認、市販されているHPV検査を、原発性子宮頸癌のスクリーニングに適用する暫定的な指針となる。25歳以上の女性に対しては、現行のスクリーニングでは細胞診(パップテスト)を用いているが、改訂版ではHPV検査が細胞診に代わるものとなり得るとした。ただし、25歳以下のスクリーニングは、現行のまま細胞診のみとなっている。そのほか、(1)スクリーニング結果で陰性だった場合の検査間隔、(2)陽性結果の管理法、(3)陰性が続く女性における検査の中止――など多くの重要な臨床的問題も取り入れている。

 過去30年にスクリーニングが普及したため、子宮頸癌の発症率と有病率は、ともに50%以上減少。さらに現在ではHPVワクチンにより頸部癌の1次予防が可能となっている。今回の改訂版指針では、 9価HPVワクチンも追加。2価、4価、9価とどのHPVワクチンも高い予防力を持つことから、9-26歳の女性に対するいずれかのHPVワクチンの接種を推奨している。

参照
子宮頸がんワクチン被害救済、定期接種前も 厚労省方針

行政・政治 2015年9月5日(土)配信朝日新聞


 子宮頸(けい)がんワクチンの接種後に健康被害を訴える女性が相次いでいる問題で、厚生労働省は、今秋にも救済策を拡大する方針を固めた。

法律に基づく定期接種になる前に接種を受けた人にも、定期接種と同じ水準の医療費の支給を検討している。

 ただ救済の対象になるには、接種との一定程度の因果関係が厚労省に認められる必要があり、どれだけ広がるかが課題となる。

 子宮頸がんワクチンは、患者団体や学会などからの要望を受け、国が特例的に2010年11月から接種費の公費助成を始めた。

13年4月に予防接種法に基づいて市町村が実施する定期接種となったが、体の痛みやけいれん、歩行障害などの健康被害の報告が続き、2カ月後に厚労省は積極的な推奨を中止した。


 厚労省によると、接種の対象は原則小学6年~高校1年の女子で、これまでに接種を受けたのは約340万人

このうち、定期接種前が9割以上を占める


健康被害は約2500人分が報告され、ほとんどが定期接種前という。報告のうち重症は4分の1。



 ワクチン接種によって健康被害に遭った場合、定期接種とそれ以外では救済制度が異なっている


定期接種では通院、入院を問わず、かかった医療費の自己負担分が支給される。


一方、定期接種ではない場合は、医療費は入院相当に限られ、通院治療でかかる費用は出ない。



 医療費とは別に、定額の医療手当が定期接種では通院でも月3万4千~3万6千円支給されるが、定期接種以外では入院相当しか出ない。このため、「不公平」との指摘もあった。


 厚労省は、定期接種になる前から公費助成で接種を進めてきた経緯をふまえ、医療費や医療手当については定期接種前後での差をなくすことを検討している。

障害年金なども">定期接種の方が手厚いfont>が、これを同水準にすることには否定的だ。

 医療費などの支給を受けるには、専門家の審査を経てワクチン接種との因果関係が「否定できない」と厚労省に判定される必要がある。

厚労省は、現在でも幅広く救済することを目的としており、判定の仕組みは変えないという。



定期接種前に接種を受けた人からの救済の申請は今年7月までに98件。

このうち結果が出たのは27件で、支給されたのは18件、残り9件が不支給だった。



 健康被害を訴えている人たちには、接種から長期間たってから症状が出たケースも少なくない。


ワクチンとの因果関係を巡って専門家の中で意見が分かれており、厚労省がどれだけ認定するかわからない。(田内康介)
子宮頸がんワクチン議論再開へ 厚労省、中旬にも検討会



行政・政治 2015年9月7日(月)配信朝日新聞


 子宮頸(けい)がんワクチンの副作用問題で、厚生労働省は今月中旬にも専門家による検討会を開き、中止している積極的推奨をめぐる議論を再開する。1年2カ月ぶりとなる。


健康被害を受けた人に医療費などを支給する審査も滞っていたが、検討会に合わせる形で本格化させる。


 検討会では、健康被害が報告された約2600人の追跡調査の結果が公表される。

これをもとにワクチン接種と健康被害の因果関係を分析した後、推奨の中止を続けるのかや、法律に基づく定期接種の位置づけをどうするのかを議論していく。

医療現場でも意見が分かれており、結論が出るには時間がかかる見通し。

 子宮頸がんワクチンは2013年4月に市町村が実施する定期接種となった。

健康被害の報告が相次いだことを受け、2カ月後の同年6月に検討会は、定期接種の位置づけは変えないまま、一時的に推奨を控えるべきだと提言。


2014年1月には、長期的な痛みやしびれなどの健康被害について「心身の反応」とする意見をまとめた。

 これに対し、被害を訴える人たちが反発、与党議員から早期の推奨再開への批判も出た。

検討会は2014年7月を最後に、推奨をめぐる議論はほとんどしてこなかった。

 厚労省は検討会での議論の参考にするため、健康被害の発生状況などを統計的に分析する疫学の専門家らによるチームを新たにつくる。


接種対象の小学6年~高校1年の女子について、接種の有無で痛みやしびれの発症状況に差がないか調べることを考えている。

この分析結果が、議論を左右する可能性がある。

 また、厚労省は検討会を開いた後すみやかに、健康被害を受けた人に医療費などを支給する制度への申請を審査する会合を開く。


7月末現在の申請は、定期接種になる前に任意で接種を受けたケースが98件、定期接種後が十数件。


うち結果が出たのは定期接種前の27件で、審査は進んでいなかった

厚労省は定期接種前の10年から公費助成していたことをふまえ、医療費などの支給は定期接種前でも定期接種と同水準にする方針を固めている。(田内康介、福宮智代)
子宮頸がんワクチン、「心因」表現用いず 接種後の症状、医師会が手引き
臨床 2015年8月20日(木)配信毎日新聞社


 子宮頸(けい)がんワクチン接種後に痛みなどを訴える10代の女性が相次いでいる問題で、日本医師会と日本医学会は19日、接種後に生じた症状に対する医師向けの診療手引きを公表した。

厚生労働省の専門家検討会は昨年、体の異常は接種時の痛みや不安による「心身の反応」との見解をまとめたが、


「心の問題」とされたことへの患者らの反発を考慮し、手引きでは「心因という表現は原則として用いない」と明記した。


 手引きでは、

体の持続的な痛み、倦怠(けんたい)感、運動障害、記憶など認知機能の異常といった多様な症状や経過、生活上の支障について、患者や家族から丁寧に聞き取り、長めの診療時間を確保することが望ましい、との基本姿勢を示した。


 痛みの診断の際には、患者の思い込みや気のせいという意味合いが含まれる可能性があるため、心因という言葉を使わないことで合意したという。


 治療にあたっては、痛みなどの症状は神経系の反応であり、原因の特定が困難であることを患者に繰り返し説明し、痛みを抑える治療のほか、筋力をつける運動を積極的に行うことを推奨した。




 厚労省がワクチンの接種勧奨の中止を決めてから約2年。


日本医師会の横倉義武会長は「全国の医療機関で活用し、適切な治療につなげてほしい」と話した。手引きは日本医師会のホームページで見られる。【下桐実雅子】

………………………………………………………………………………………………………

 ■解説

 ◇患者に配慮「前進」

 子宮頸がんワクチン接種後の体調不良に苦しむ患者の中には、診察した医師から「気のせい」「ワクチンのせいだと思うから悪くなる」などと言われたケースが少なくない。


手引きには、そうした相互不信を和らげる役割が期待され、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」の松藤美香代表は「患者の訴えに向き合う姿勢を示してくれた点では前進」と話す。

 ただ、日本医師会の小森貴常任理事が「病態を明らかにするのが狙いではない」と説明したように、手引きは接種で起こり得る健康被害を定義したものではない


因果関係に踏み込まないままでは、補償や安全性の議論は進まない。

「日本だけ(ワクチンを打たず)子宮頸がんが将来増えるのを憂う」
(高久史麿・日本医学会会長)のであれば、多様な症状が起きる原因の解明と治療法の研究が急がれる。【清水健二】
2015年9月1日(火)配信毎日新聞社

Dr.北村の女性クリニックへようこそ:子宮頸がんワクチン どうなった

 
Q 子宮頸がんワクチン どうなった 2年前の6月から、子宮頸(けい)がん予防ワクチンの接種が止まったままになっていますよね。うちの娘も、2回までは接種したのですが、3回目はまだです。このままいつまで待ったらいいのでしょうか。(42歳・女性)


 A 増える罹患率 再開めど立たず

 「どうなっているの?」と尋ねたいのは、実は僕の方なのです。

2年前(2013年)の4月に定期接種がスタートしたのもつかの間、同年6月には持続する痛みの副反応症例を訴える人たちも出てきて、積極的な接種勧奨を一時的に差し控えると国が発表しました。

既に2年が経過していますが、いまだに再開のめどが立っていません。

 子宮頸がんは決して特殊な病気ではなく、女性特有のがんとしてはわが国では乳がんに次いで罹患率(りかんりつ)が高く、特に20代から30代でのがんでは第1位となっています。

しかも、10年には1990年に比べてこの世代の女性の罹患率は約2倍に増えています。

日本人女性の約76人に1人が、生涯にかかるリスクがあり、毎日10人が死亡し、30人が子宮頸部の円すい切除術を受けています。

また、米国では子宮がん検診が当たり前で検診受診率が85・0%であるのに日本は37・7%に過ぎません。

子宮頸がん予防ワクチンの定期接種への期待は、特に若い女性を巡る深刻な事態があるからなのです。

 検診をすることで子宮頸がんによる死亡を防げるという方もいます。


しかし、検診とは、がんあるいは前がん状態の早期発見には有効ですが、程度の差こそあれ手術が必要となります。

円すい切除術とは、レーザーや高周波ループなどを使って子宮頸部の一部を切除する方法ですが、その結果、流産や早産のリスクが高まることがあります。


仮にがんが進行すれば子宮を含めて広範囲な手術をせざるを得なくなり、将来の妊娠が困難になるだけでなく、排尿障害、尿失禁、むくみなどに苦しむことにもなりかねません。

 ワクチンの接種は、そもそもがんにならないための予防ですから、検診とワクチン接種との違いは明白です。

副反応に苦しむ女性に対して手厚いサポートの必要があることはいうまでもありませんが、このままワクチン接種が止まっていていいのでしょうか。


 「何かをやって失敗するのと、やらずに失敗するのとでは、どちらの罪が重いのだろうか。

予防接種ワクチンの副反応は大きく取り上げられるが、予防接種をしないことの将来的な損害については、あまり注目されていない」という科学技術社会論研究者の佐倉統(おさむ)さんの言葉が胸に響きます。


10年後、20年後、世界で唯一子宮頸がんに罹患した女性が住む国などと揶揄(やゆ)されないためにも、子宮頸がん予防ワクチンの積極的勧奨が速やかに再開されることを願わずにはおれません。

(日本家族計画協会クリニック所長、北村邦夫)=毎週火曜掲載
HPV接種「子宮頸部、肛門、口腔」3部位で予防効果確認

米国学会短信2015年5月7日(木)配信 小児科疾患産婦人科疾患感染症


 米国癌学会(AACR)は4月21日、18-25歳の女性に対するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種が、HPV暴露歴のある女性においても、ある程度の予防効果を示すという研究所見を紹介した。4月18-22日開催のAACR年次会議で発表された。


 今回の研究は、HPV 16/18ワクチン接種による子宮頸部、肛門、または口腔での感染予防効果を、Costa Rica Vaccine Trial(無作為化、対照比較試験)の3つサブグループ解析で評価した。

その結果、全部位でHPVワクチンの予防効果が確認された女性の割合は、HPV暴露の歴のない群で83%、暴露群でも58%に達した。

一方、接種時に子宮頸部で活動性のHPV 16/18感染が認められた群では、予防効果は25%にとどまった


また、3つの部位のうちのいずれか1部位で予防効果が認められた女性の割合は91%にのぼった。



 研究者は

「HPVワクチンに治療効果はないが、HPV暴露歴のある女性においても、HPVワクチンが、非感染部位において将来的な感染に対する予防効果を示す可能性がある」

と期待感を示している。

http://www.aacr.org/Newsroom/Pages/News-Release-Detail.aspx?ItemID=719#.VUGrqmccTIV
日本産科婦人科学会、子宮頸癌予防へ細胞診とともに「必須の両輪」と強調

日本産科婦人科学会2015年9月1日(火)配信

 日本産科婦人科学会は8月29日、子宮頸癌予防ワクチン(HPVワクチン)接種の勧奨再開を求める声明を発表した。


同ワクチンを巡っては、接種後に疼痛などの健康被害に関する報告が相次いだことから、2013年6月に厚生労働省が接種勧奨の一時中止勧告を出し、現在の接種率はゼロ近くになっている。

同学会では、HPVワクチンが「細胞診とともに子宮頸癌予防に必須の両輪」として、早期の勧奨再開を要望している。

 声明では、HPVワクチン接種勧奨の一時中止勧告が出された後、厚労省の副反応検討部会などで専門家による調査、議論が行われ、接種後の副反応として報告された慢性疼痛や運動障害などは機能性身体症状によるものとの見解が出されたことに言及している。

さらに10万接種当たりの発生頻度は2.0件で、その後の研究でこれら症状とワクチン成分との因果関係を示す科学的、疫学的な根拠は得られていないと指摘している。


 同学会は、47都道府県に協力医療機関を設置しHPVワクチン接種後の症状に対する診療体制を整えたことや、2015年8月19日に日本医師会と日本医学会が「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」をまとめたことに触れ、「接種希望者がより安心してワクチン接種を受けられる環境が整ってきた」と強調。


 日本では毎年約1万人が子宮頸癌に罹患し、約3000人が死亡、細胞診の受診率が欧米に比べて低いことなどを列挙し、HPVワクチン未接種による不利益についても科学的根拠に基づき考慮する必要があるとして、

「今後も子宮頸癌の根絶を目指し、HPVワクチンに関する科学的根拠に基づく知識と最新の情報を国民に伝えるとともに、ワクチン接種後の諸症状に対応しつつHPVワクチンの接種勧奨を早期に再開することを強く要望する」と訴えている。

子宮頸がんワクチン、

予防か安全性か問題点をおさらい

2015年1月5日(月)朝日新聞





子宮頸(けい)がんワクチンの接種を、国が積極的にすすめなくなって1年半になる。注射の後に長期的な痛みなどに見舞われる患者が相次ぎ、打開策を見いだせないためだ。病気を防ぐ有効性と、悪い影響が出るリスクをどう受け止めればよいのか。現状を整理した。

■副作用の原因、未解明

 「若い女性が死亡する悲劇をなくせる」「患者の声に耳を傾けるべきだ」

 東京都内で12月10日に開かれた日本医師会と日本医学会主催のシンポで、ワクチン推進派と慎重派が互いの主張を述べた。


 子宮頸がんは子宮の入り口にできる。性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主な原因で、日本人女性では年に約1万人(上皮内がんを除く)が罹患(りかん)し、約3千人が死亡するとされる。20~30代で発症率、死亡率が増加しているのが特徴だ。



 ワクチンは、子宮頸がん全体の5~7割の原因とされる2種類のHPVの感染を防ぐ効果があると言われている。


2013年4月に小学6年~高校1年を対象に、予防接種法に基づく「定期接種」と位置づけられた。これまでに約340万人が接種した。



 しかし、接種後に原因不明の全身の痛みや運動障害を訴える少女が続出。厚生労働省は2カ月あまりで積極的推奨を中止した。


厚労省によると、今年3月までの副作用報告は2475件で、重症が約4分の1を占める。長期の痛みや運動障害が176件だった。



 ただ、ワクチンの成分と痛みなどとの因果関係は証明されていない。厚労省の部会は1月、注射時の痛みや不安による「心身の反応」との見解をまとめた。



 しかし、専門家の一部や被害者側は反論する。西岡久寿樹・東京医大医学総合研究所長らのチームは、ワクチン接種後、時間経過とともにけいれんや痛み、歩行困難、脱力などの症状が出ていると指摘。「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群」という新しい病気の概念を唱えている。



 神奈川県の中学生(14)はワクチンを3回接種した後の昨年9月、体育祭の練習中に足の力が突然抜け、手の震えが止まらなくなった。その後も激しいけいれんを起こしたり、記憶を失ったりし、今も通学できずにいる。父は「接種前は歌やダンスが大好きで、元気だったのに」と憤る。



■接種後のケア、整備中

 子宮頸がんワクチンは、50カ国以上で公費による接種が実施されている。世界保健機関は今年10月、「安全性に問題ない」と改めて宣言した。


 日本では昨年6月以降、接種率が大幅に下がっている。子宮頸がんの検診受診率も海外の主要国に比べて低く、日本産科婦人科学会は「十数年後には、日本だけが子宮頸がんの罹患率の高い国になる可能性が懸念される」とする。



 厚生労働省は、接種後の痛みなどに苦しむ人が適切な治療が受けられるよう、協力医療機関を整備している。愛知医大病院の痛みセンターは、複数の診療科が連携し、ストレッチ体操や漢方薬治療なども採り入れる。牛田享宏部長は「患者と信頼関係を築くことが何より重要」と語る。



 厚労省はこれまでの副作用情報すべてを追跡調査し、来年2月末までに報告するよう医療機関などに求めている。その結果を踏まえ、積極的な推奨を再開するか議論する見通しだ。


 川名敬・東京大准教授(産婦人科)は、ワクチンの安全性調査と副作用が起きた場合の支援態勢の充実を前提に、「ワクチンの利点も知った上で、接種するかを判断してほしい」と話す。(伊藤綾、田内康介)

子宮頸がんワクチン、医療関係者がシンポ 副作用への不安理解訴え

毎日新聞社 2014年12月18日(木) 配信
くらしナビ・医療・健康:子宮頸がんワクチン、医療関係者がシンポ 副作用への不安理解訴え

 副作用報告の多発で接種の呼び掛けが中断されている子宮頸(けい)がんワクチンについて10日、日本医師会と日本医学会が医療関係者向けの初のシンポジウムを開いた。このワクチンの安全性や有効性を巡っては、医療界でも意見が分かれる。当日の主な議論を紹介する。

 ●脳機能障害の報告も

 子宮頸がんワクチンの副作用報告は、厚生労働省に約2500件寄せられている。これらをどう見るか。登壇した8人の専門家の意見は一致しなかった

 牛田享宏(たかひろ)・愛知医大教授は、厚労省研究班が18施設で診察した患者204人について、血液検査や脳画像に大きな異常はなく、広範囲の痛みが主な症状だったと指摘。痛みが慢性化すると、体を使わなくなって筋肉や神経、脳などにも変調が及ぶとの見方を示し、「慢性的な痛みは一般の小中高生にもあることで、不安を取り除くだけでも症状は良くなる」と報告した。

 これに対し、池田修一・信州大医学部長は「痛みを取っても、眠りすぎや記憶力低下などの脳機能障害が残る。未知の異常が隠されているのでは」と述べた。横田俊平・国際医療福祉大熱海病院長も「痛みから始まり、次第に光過敏など脳の異常とみられる症状に進展していく。この変化は神経がつながっている脳の別の場所に病変が広がったと解釈できる」と説明した。

 ●因果関係の証明困難

 副作用報告の中には、ワクチン接種が原因かどうか分からない症状も含まれる。複数の登壇者が「因果関係の証明は難しい」と述べた。一方、西岡久寿樹(くすき)・東京医大医学総合研究所長は「症状の個々の原因が不明でも、症状はすべてワクチン接種から始まっている。全体を新たな病気と捉えるべきだ」と主張。一連の症状をHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)関連神経免疫異常症候群(HANS)と名付け、各分野の専門医で早急に治療指針を作ることを提案した。ただし、会場から「HANSの症状が出る割合を、ワクチンを打っていないグループと比較したデータがない」と疑問を指摘する声も上がった。

 患者には「医師がワクチンの副作用と認めてくれない」と不信感を持つケースも少なくない。心身医学が専門の宮本信也・筑波大教授は、治療の心構えとして「発症原因は一時棚上げし、患者の心理的ストレスやワクチンへの複雑な思いを理解して、今できることを一緒に考えるべきではないか」と訴えた。

 ●患者への支援体制を

 事実上中断しているワクチン接種の勧奨をどうすべきか。日本産科婦人科学会理事長の小西郁生・京都大教授は、世界保健機関(WHO)がワクチンの有効性を認める声明を出し、58カ国で公費による接種が実施されている現状から、「子宮頸がん患者が増えているのは日本だけだ。接種が進む米国や豪州、スコットランドなどでは、がんの原因になるウイルス感染者が減ったとのデータがある」と早期の再開を求めた。

 一方、西岡氏は海外でも副作用が問題になっているとして「デンマークでは人口比で日本の約3倍の副作用報告が出ており、症状も日本の患者と同じだ」と慎重な対応を求めた。

 シンポジウムの座長を務めた高久史麿(ふみまろ)・日本医学会会長は終了後の記者会見で「子宮頸がんワクチンには▽(心身の変化が大きい)思春期の女性が対象▽接種時の痛みが強い▽3回注射が基本――など他のワクチンと違う特徴があり、専門家の見解も割れるのだろう。個人的には接種は続けるべきだと考えるが、副作用の出た患者への支援体制を整えることが必要だ」と語った。【清水健二】