子宮頸がんワクチン、
子宮頸(けい)がんワクチンの接種を、国が積極的にすすめなくなって1年半になる。注射の後に長期的な痛みなどに見舞われる患者が相次ぎ、打開策を見いだせないためだ。病気を防ぐ有効性と、悪い影響が出るリスクをどう受け止めればよいのか。現状を整理した。
■副作用の原因、未解明
「若い女性が死亡する悲劇をなくせる」「患者の声に耳を傾けるべきだ」
東京都内で12月10日に開かれた日本医師会と日本医学会主催のシンポで、ワクチン推進派と慎重派が互いの主張を述べた。
子宮頸がんは子宮の入り口にできる。性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)感染が主な原因で、日本人女性では年に約1万人(上皮内がんを除く)が罹患(りかん)し、約3千人が死亡するとされる。20~30代で発症率、死亡率が増加しているのが特徴だ。
ワクチンは、子宮頸がん全体の5~7割の原因とされる2種類のHPVの感染を防ぐ効果があると言われている。
2013年4月に小学6年~高校1年を対象に、予防接種法に基づく「定期接種」と位置づけられた。これまでに約340万人が接種した。
しかし、接種後に原因不明の全身の痛みや運動障害を訴える少女が続出。厚生労働省は2カ月あまりで積極的推奨を中止した。
厚労省によると、今年3月までの副作用報告は2475件で、重症が約4分の1を占める。長期の痛みや運動障害が176件だった。
ただ、ワクチンの成分と痛みなどとの因果関係は証明されていない。厚労省の部会は1月、注射時の痛みや不安による「心身の反応」との見解をまとめた。
しかし、専門家の一部や被害者側は反論する。西岡久寿樹・東京医大医学総合研究所長らのチームは、ワクチン接種後、時間経過とともにけいれんや痛み、歩行困難、脱力などの症状が出ていると指摘。「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群」という新しい病気の概念を唱えている。
神奈川県の中学生(14)はワクチンを3回接種した後の昨年9月、体育祭の練習中に足の力が突然抜け、手の震えが止まらなくなった。その後も激しいけいれんを起こしたり、記憶を失ったりし、今も通学できずにいる。父は「接種前は歌やダンスが大好きで、元気だったのに」と憤る。
■接種後のケア、整備中
子宮頸がんワクチンは、50カ国以上で公費による接種が実施されている。世界保健機関は今年10月、「安全性に問題ない」と改めて宣言した。
日本では昨年6月以降、接種率が大幅に下がっている。子宮頸がんの検診受診率も海外の主要国に比べて低く、日本産科婦人科学会は「十数年後には、日本だけが子宮頸がんの罹患率の高い国になる可能性が懸念される」とする。
厚生労働省は、接種後の痛みなどに苦しむ人が適切な治療が受けられるよう、協力医療機関を整備している。愛知医大病院の痛みセンターは、複数の診療科が連携し、ストレッチ体操や漢方薬治療なども採り入れる。牛田享宏部長は「患者と信頼関係を築くことが何より重要」と語る。
厚労省はこれまでの副作用情報すべてを追跡調査し、来年2月末までに報告するよう医療機関などに求めている。その結果を踏まえ、積極的な推奨を再開するか議論する見通しだ。
川名敬・東京大准教授(産婦人科)は、ワクチンの安全性調査と副作用が起きた場合の支援態勢の充実を前提に、「ワクチンの利点も知った上で、接種するかを判断してほしい」と話す。(伊藤綾、田内康介)