震災で壊滅的被害を受けた石巻市場ですが、再建にあたって何を目指したかというと、海外マーケットへの対応です。



HACCPシステムを導入しようということでした。
エッチエーシーシーピー?ではなく、ハサップと読むのですが、
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略です。

Hazard Analysis (危害の分析)、Critical Control Point(重要な管理のポイント)

HA分析に基づいて健康へ悪影響をおよぼす可能性のある要因の発生を防止または排除、もしくは、許容できるレベルにまで低減するための工程(CCP)を決め、その工程を重点的に管理する手法であり、これまでの事後対応型ではなく、食中毒などの健康危害の発生をあらかじめ予防することを念頭に置いたものです。

1993 年に
国際食品規格委員会であるとコーデックス委員会により食品産業事業者が守るべき、国際的な食品衛生管理システムとしてHACCPシステムが位置づけられました。

特にEU市場に水産物を輸出しようとすると、HACCP システムによる衛生管理の導入が必要となります。

漁村総研資料「地域と一体になった水産物の衛生品質の管理について」より抜粋

上図でもわかるように、決められた衛生基準管理の仕組みを導入した、漁船からはじまり漁港、市場、加工場から輸出先の消費者まで一貫した認定登録の流れを構築しなければなりません。

この流れのどこかに、未認定部分があるとHACCPシステムによるサプライチェーンは成立しません。

しかしながら、その導入に成功すると、生産者は市場を通じて世界中に顧客を広げることも可能になるというわけです。

食品加工場でHACCP認定を取得している施設は多々ありましたが、この石巻魚市場が完成するまで、国内には対EU輸出水産食品取扱認定施設としての「市場」は皆無でした。


それをクリアしたのが石巻魚市場なんです。
だから、認定を受けた漁船なら石巻へGOなのです。


では、石巻魚市場では具体的にどういったことをおこなったのでしょうか?

漁村総研第1調査研究部には研究活動が公開されています。
http://www.jific.or.jp/report/research1.html

これですね!市場の課題は。
衛生管理対応の流通拠点

第2調査部では、マコガレイの生活史に対応した漁場の整備。
さかなクンさんみたいな、魚の研究です。



瀬戸内海を舞台にマコガレイを1年以上に追っかけている。
ずいぶん面白そうな研究です。

なんか、漁村総研に入りたくなってきたんですけど!


そういった研究資料をあさっておりましたら、漁村総研に資料がありました。
www.jific.or.jp/dispatch/ronbun/pdf_h22/2209.pdf

そのものズバリ石巻卸売り市場の基本設計が論文化されております。


ゾーンディフェンス?
サッカーやバスケットボールで耳にするような言葉、いったいどういうものなのでしょうか?何からディフェンスするというのでしょうか?

目的はこうなっています。

石巻魚市場の復興のため,国が目指す高度衛生管理を導入し、輸出も可能なレベルの食の安全安心を確保するため、まず、水産物の取扱いの各工程でハード及びソフトの衛生管理対策を施した高度衛生管理基本計画を策定する。中でも、水揚げ量が膨大なため、トラック直積みによる荷さばき方法を採用する必要がある沖合底引網漁業について、今までは施設内から排除していた車両を対象に、衛生管理の高度化と施設の効率的利用を実現するための平面計画を提案する。


「トラック車両と荷さばき作業と衛生管理を両立させた平面計画」これ、まさに築地が求めているものなのではないでしょうかねえ。

石巻の車両の動きが模式的フロー図として示されています。
築地からは漁船の船着きは無くなっていますが、石巻は岸壁に船が着けられるんですね。

この赤枠内を衛生管理しよう、とのことです。



それまでの石巻魚市場における問題は以下とされています。

(1)陸揚げ作業時の問題点

①陸揚げは屋外での作業となっており、日射、風雨、カモメ等を避ける施設が設置されていない。
②出荷車両のタイヤや荷台の洗浄が徹底されていない。
③車両や関係者以外が自由に進入できる状況であり、管理・確認がされていない。
④密閉容器、シートによる露出防止の徹底及び定期的な確認が実施されていない。
⑤泊地前面から漁船ポンプで取水した海水で岸壁等を洗浄している。
⑥市場内に出荷車両が進入しているため、リフト運搬との交差汚染が起こっている。
⑦市場と屋根の無い岸壁をリフトが行き来し、岸壁の汚染を場内に持ち込んでいる。

この(1)は、漁船からの陸揚げを前提とするものですが、(2)と(3)は築地の運用においても同様に検討せねばならないことでしょう。

(2)計量・選別作業時の問題点

①鳥獣侵入防止施設・出荷車両の進入防止対策が実施されていない。
②魚種が多く、扱いが異なり、作業動線が管理されていない。
③床に直置きで選別される水産物がある。
④荷さばきを行う魚市場内に出荷トラック、関係者車両が自由に進入できる状況である。
⑤魚市場で用いる氷はシートに包まれているが,車両進入等により、細菌混入の可能性がある。
⑥水産物の露出防止が徹底されていない。

(3)積込み・運搬作業時の問題点
①鳥獣侵入防止施設・防止対策が実施されていない。
②出荷車両の荷台の洗浄が徹底されていない。
③密閉容器,シートによる露出防止の徹底及び定期的な確認が実施されていない。
④市場内に出荷車両が進入しており、リフト運搬との交差汚染がある。

(4)出荷(加工場まで運搬)作業時の問題点
①鳥獣侵入防止施設・防止対策が実施されていない。
②翌朝の入札までトラックに積まれたまま魚市場外の道路にて待機している。
③出荷車両の荷台の洗浄と温度管理が徹底されていない。
④氷解水と水産物が接触し続けている。

図解されています。

これらを解決するためのプランニングがされています。
石巻では岸壁作業がありますから、まず岸壁まで風雨をしのぐ大屋根を延ばし、市場の建物は閉鎖施設としています。




そして市場内への搬入から陳列、搬出積み込みまでが横断軸で流れるように設計してある。



これを、横いっぱいの800メートルの長さに伸ばしたものが、石巻魚市場です。

車両はすべて洗浄装置を通過する。
洗浄が完了しない車両は侵入できない。
上図の赤で囲まれたエリアを守るように、魚市場に入る手前でゾーンディフェンスを設ける。
魚市場で扱われる水産物に危害が及ばないよう配慮する。

とされています。

要は、大きくいったん閉め切ろうぜ、ということなんだということが分かりますね。

この管理体制図における[3.の陸揚げ部分]がなく、
[4.せり]と[5.退場]の間に、[仲卸し店舗]が入ったものが築地といえます。
そして、[買い出し人]は、[仲卸し店舗]と[退場]の間を動いています。
現在の築地見学者は[4.せり]と[仲卸し店舗]の間を見て歩いているということになります。

このフォークは洗浄を経たうえで屋内仕様専用と化しているということですね。
やっぱ平屋で自然光が入る大空間なら、その方がいいということです。


これは、石巻魚市場を上空から見た航空写真ですが


これ、ぐにょーと曲げたら築地になるんじゃないですかね。





つづく