何かしら昔のことを思い出すとき、その記憶を象徴するような、一枚の静止画がまず頭に浮かぶことってありませんか?

高校の時に京都に行ったなあ、なんてことを思い出すときに、まず最初に、清水の舞台から覗いた地上の景色が浮かぶ、みたいな。

ここではそれを、「記憶のサムネイル」と呼びたいと思います。
一応、サムネイルってのは、あれですね。YouTubeとかで動画を再生する時にクリックする、その動画の1カットが静止画になっているやつです。

で、で、でだ。
何が話したいかというと、記憶のサムネイルは、その記憶全体の中で一番ドラマチックな所とは限らないなあ、っちゅうことです。
往々にして、その記憶の中でもどうでもいいような情景が、なぜかまず頭に浮かんだりするんですよね。
何の意図もなく、何の思い入れも関係なく、ただ摩訶不思議で純然たる事実として。

僕だけかな。少なくとも僕はそうです。

例えばで言うと…そうだなあ、新しすぎる記憶はまだサムネイルが出来てなかったりするので(僕はね)、去年、つまり2015年に起きたことを例にとって、ちょっと話しましょうか。

前々回の、「ハワイ」という公演。
これは、本当に劇団や僕個人に様々な苦難が襲い掛かって、そんな中で何とか立ち上がって、作り上げた作品でした。
普通に考えたら、この記憶を思い出すとき、頭に浮かぶべきサムネイルは、皆で円陣を組んだりとか、カーテンコールで拍手を貰ったりとか、そういうことですよね。ドラマチックという意味では、確実にそうです。

でも、そうじゃないんですよね。

じゃあ何かって言うと、劇場の下見なんです。
分かりますか?公演本番よりずっと前、劇場の構造を見に行くという、それだけのイベント。
それも、別に全員で行ったわけでもなく、たまたまその時スケジュールの合った劇団員と、あとスタッフさんと。



この写真からも分かって貰えるかと思いますが、別に何にも面白くもなけりゃ、事件が起きたわけでもありません。本当に、ただの下見。
でもね、なぜかこの光景が、僕の中で「ハワイ」のサムネイルなんです。



「ハワイ」の後に行った、三ヵ月に渡る劇団の新人稽古、そして発表会。
これも普通に考えたら、サムネイルは、新人発表会本番のこととか、稽古で新人を怒鳴ったこととか、そうなるはずですよね。

でもやっぱり、そうじゃなくて。
新人稽古の期間中、僕が稽古とは全く関係ない別の仕事で人員が必要になって、新人の中の三人に手伝って貰ったんですね。で、仕事が終わった後、控室で新人達と僕で、まったりお茶を飲んで。
その「まったりお茶を飲んでいた時間」が、僕の新人稽古のサムネイルです。



「ハワイ」と前後して自分の身に起きた、小説デビューという事件。
普通に考えたらサムネイルは、出版社の方に僕で決定と言って頂けた時とか、いざ本屋に並んだ自分の本を見た時とか、父親から手紙が届いた時とか。

なんだけど、やっぱりやっぱり違って、まるまる一日パソコンに向かっているある日の夕方、出かけるのが面倒くさくてピザを取って食べた時の、マルゲリータピザがサムネイルです。



何でしょう、自分でも不思議です。
一応言っておきますが、ドラマチックな瞬間に心が動いていないわけでは決してないんです。

そりゃあ、本屋で自分の本を見つけた時なんて死ぬほど嬉しかった。それに比べたら、マルゲリータピザなんてマジでどうでもいいことです。

でも、理屈じゃなくて、実際そうなんだから仕方ない。



遡ればもっと、意味の分からないサムネイルもあります。

あれは、そう、大学一年生の冬休みに、福岡に帰省した時。
これに関しては、ちょっと背景の説明が必要です。

僕には福岡に、椎木君という友人がいます。万能グローブガラパゴスダイナモスという福岡の劇団の主宰です。
彼とは高校演劇からの付き合いで、僕が上京する時に、お互い場所は変わるけど演劇頑張ろうな、と約束したんですね。

でも僕は大学に入って、演劇サークルに入ることを選ばなかった。
何でしょう、花の都で大学生デビューして、色んな可能性を試したかったんでしょうか。

だけど、演劇のない日々は、面白くもなんともなくて。
毎日退屈だし、椎木君にも申し訳ないし。
そんな中で冬に、一念発起して、演劇サークルの門を叩いて。
それで年末帰省して、大晦日の夜、椎木君達と朝日を見にドライブに行くことになって。

つまりは、僕が椎木君に、「俺、もっかい演劇やってみるよ」と告げる、とても感動的なイベントだったわけです。
でも、サムネイルは全然関係なく。
ドライブの前に見た、「曙VSホイス・グレイシー」です。


人体の不思議、としか言えません。
でも、「物事を簡単に纏めない」ことをテーマにリスタートした自分にとっては、示唆に富んだ現象と言えるかも知れませんね。


意味もオチもないから、今まではしなかった話。
これからも、こんなとりとめのない話を、ここではしていけたらと思っています。