よろしくおねがいしません
端的に言って、ちょっと微妙な出来でした。
僕はしばしば作品に対して苦言を呈する事が多いですが、基本的には単に嫌いだからやっているという訳では無いんです・
もっと良い物が観たい、もっと良い物を作ってくれ(たとえ個人的な尺度であるにしても)そういう気持ちを込めて言ってます。
では、先に誉めておきましょう。
戦闘シーンなんかは迫力があって格好良かったし、家族ものというテーマもなかなか興味深かったです。
みんながゴチャゴチャ動いているところとか、田舎の家庭の描写も結構思い当たるところがあって面白く観れました。またネットと家族という対照的な繋がりを並行して(しかも肯定的に)描いている部分も良かった。
とまぁ、こんな所でしょうか。
まぁ否定的に語る作品の中には、確かに嫌いなのがある程度先行している作品もあるとは思うんですが、『サマーウォーズ』に関してはこうしたらもっと良くなるんじゃないかという部分が非常に多い作品でした。
それらの要素を束ねて言えば
「盛り上がりの頂点しかない」
という感じでしょうか。
盛り上がるパートや、良いシーンはなかなか多いのです。
しかしながら、それが出てくると
「アレ……? ここへ行くまでに色々足りなくね?」
って感じになってしまうんですね。
登場人物や設定が物凄く多い映画なので、尺との兼ね合いもあると思われますが、僕は描ききれないくらいだったらもっとシンプルにして爾るべきだったんじゃないかと感じてます。
主人公・ケンジ
ヒロイン・ナツキ
脇役・カズマ
脇役・ワビスケ
物語は基本的に彼らにおばあちゃんを加えた形が主体となりますが、上記の誰もが描き切れて無いというか、もっと掘り下げられるんじゃないかという気分を持たせます。
スキルの成長はあるが、人格的にはあまり成長していないように見える。
たとえ成長らしき行動の違いはあっても過程がない。
変化があったとしても、その後に生きない。
これがみんなに言える事。
ケンジも数学能力が進化していますが、何かを為そうと言う時に優柔不断さというか躊躇いがない。彼は基本的に気弱なキャラとして描かれていますから、そういった部分の変化が大切だと思うんだけれども、変化前と変化後だけが出てしまってあまり悩んだり迷ったりしているところがない。
弱気キャラから決断出来る人へ、殆ど一気に変わっちゃってる。
ナツキもそう。彼女はワビスケが初恋相手という設定があって、物語初期でもそれを引きずっています。
けれどワビスケは作中トラブルの根幹に関わっていた事が判明して、途中でおばあちゃんと対立して出ていってしまう、更に追い打ちを掛けるようにおばあちゃんが逝去する。
そこでナツキはケンジに手を握って貰う。
さっきケンジの成長が分かり難いと言いましたが、ここは一応ケンジ側から見れば「ちょっと男にならなきゃな」みたいなシーンに取れなくはないです。その後の葛藤は無いんだけど。
でもですね、このシーンはナツキにとって、ケンジじゃなきゃいけないって訳じゃないんですよ。
どちらかというとワビスケ居なくなっちゃったからという代理的なイメージが強い。
最終的に彼女はケンジに惚れるんですが、ワビスケに対する断ち切りとケンジに想いを向ける切っ掛けがナツキ視点で描写されてないので彼女がビッチに見えてしまうんですね。
あと敵との花札勝負のシーンでは彼女が主体になってやるんですが、彼女が花札強いという描写もないんです。
ワビスケと花札やってるところはある。おばあちゃんがケンジと花札やってるところもある。けどナツキが強いとは描かれていないので(ワビスケ戦も負けてる)
「え……ナツキさんは花札強いの? 大一番なのに彼女に任せて大丈夫なの?」
という気持ちになっちゃうんですね。
カズマはキャラクターとして良く描けていた方で、むしろ彼を主役に一作品作れる思う(漫画でカズマ主役の前日譚があるらしい)んですが、彼もまた変化の過程がすっ飛ばされているので可哀想。
彼は当初家族の輪に入らないで、ちょっと尖った子供として描かれています。
だけどゲームの中では格闘チャンピオンで「格闘王キングカズマ」として君臨しています。
何度も敵に負けるのですが、その度に立ち上がる強さも持っています。
けれど、最初に負けてから挫けて立ち直るまでの心理が殆ど描かれていない。
彼のようなキャラクターであれば
独りよがりで強がり
↓
初めて敗北を知って挫折
↓
もうすぐ妹が生まれる事を知る
↓
敗北する恐れがあっても闘わなきゃいけない事もある。守る為に。
というドラマが組み立てられます。
けど、カズマに妹生まれるってのが明確に出てくるのは後半で闘う時。
しかも初戦の時点でもう彼は知ってる状態らしく、2度目の再戦の決意をするまでのドラマが薄い。
家族の輪に戻るのも、いつの間にやら。
その後一応妹に触れるところはあるんだけど、どっちかって言うと泣き言に近い文脈で出てきてしまう。
描写としては主人公との兼ね合いもあるんだけど、結局両方とも描ききれなかった感が強いんでどうせならこの子が主人公だっ方が面白かったんじゃないかという気はする。
で、一番可哀想なのがワビスケ。妾の子で養子に入ったけど親戚からは白眼視。おばあちゃんだけは理解してくれて、認められたいが為に家の山売ったお金を使いアメリカで成功しようと今回の敵を創り上げてしまった。
そんで、おばあちゃんに半ば勘当に近い形で追い出され、直後におばあちゃん死亡。
コレ、殆ど『エデンの東』に出てくるケイレブ(ジェームス・ディーン)なんです。
家族不和→親に認められたくて金儲け→金儲け成功するけど肝心の親に拒否される
しかし彼は主人公ではないので、おばあちゃんの死を知った後戻って来て遺体に謝って……そっから空気になっちゃうんですね。
むしろそっからが大事なんじゃないかと思うんですが。また妾の子というコンプレックスと才能があるんだという自尊心との描写も合わせれば、これまた1人の主人公が出来るくらいの人なんだけど、あんまり(スタッフに)構って貰ってなかったみたいで残念です。
こんな感じで、全体的になおざりなんですねぇ。
他にも親戚の活躍の場が殆ど無かったりする。コレも悲しい。
協力はしてくれるんですよ。色々物資調達してくれてね。
ただ資財搬入だけだとタイミングを考えない限り協力してる感が薄くなっちゃうんですね。
「アレがない、どうしよう!」
って時に
「ホラ、これ持ってきたぞ!!!」
となるから活躍に思えるんであって、最初に全部揃えちゃったら後は空気になるしかない。
だからイカ釣りや消防士、自衛隊員の財産だけではなくスキルでも協力出来るような形にしたほうが盛り上がると思うんですね。
一応消防士スキル発揮してたけど水入れただけだったからなぁ……せめて火消しな感じとか。
言葉に引っ掛けてファイアーウォールを突破するとかね、そういうのでどうだろう。
同様に女性陣も空気化している時間が長かった(ナツキ含め)ので、女性陣がメシ用意して男衆が挫けそうな時に尻を叩くような場面があっても良かったんじゃないかな~。
花札勝負も然り。
ナツキ強いって描写も不足していた上に、相手もあまり強く見えなかったので中途半端な印象がありました。
ここは『マルドゥック・スクランブル』みたいに数学能力の主人公と勝負強さのヒロインの共闘でやっと対抗出来るくらいの展開だった方が燃えるんじゃないか。
そうした方が、ヒロインが主人公に惚れる理由にもなる訳だし。
あと花札の質草みたいな形でアバターの借り受けイベントが出る訳ですが、ここも過程を描かないので盛り上がりに欠けた。
ここもドラマツルギーとしてはカズマの対戦くらいからカリスマ実況者みたいな奴等が居て、最初はカズマやナツキ・ケンジ達をバカにしてくるんだけど、最後の方で頑張っているのを見たから
「まだ負けた訳じゃないだろ!? もう一度立ち上がってくれ……お前らが負けたらOZも世界もは終わっちまうんだ、それでいいのかよ!!! ……そうだ、俺のアバターを使え!! みんな、ここを観ているみんな、コイツらに希望を託そうぜ!!!!!」
とか言って触発された結果、みんながアバター貸してくれるって方がカッコイイ気がするんだ。
そういう過程が無いから「え? イキナリそうなんの??」って思っちゃうんだよ。
あと、かなり重要なのがおばあちゃんの電話攻勢。
敵の性質は他人のアバターを無理矢理奪ってしまうっていう「強制的な絆」で、機械やシステムの短所みたいなもんですね。おばあちゃんはそれに対して人脈への対話という「人情の絆」で対抗する。
ここは序盤で一つの盛り上がりを見せる場面なんだけど、やっぱり
「もうこんなシーン出して良いのか?」
と思っちゃう。
ある意味、物語のテーマというか対立軸で一番重要な箇所でもあるんだよ。
それを序盤で使うのか、っていうのと「頑張りなさい、あんたなら出来る」とか部外者が言って事態が解決するなら世話ねぇや……なんて捻くれた感想も持ってしまう訳ですよ。
だからここは、やっぱ物語終盤で使った方が良い。
でも中盤でおばあちゃん死んじゃうから、回想シーンとして使う。
こんな感じだ。
ケンジはある意味、敵が悪さをする切っ掛けに関わっていた。知らずに解いたセキュリティの暗号自体はミスタイプで失敗したみたいだけど、自分のアバター盗まれて、それが敵を強力にする発端になってしまった(そういやハッキング嫌疑が晴れる描写も無かったなぁ)
一族の会話で混乱する社会を救ったのはおばあちゃんらしいと聞いたけど、どうやって救ったのかはケンジに分からない(映画本編だとリアルタイムで目撃しているから電話攻勢知ってる)
ケンジの嫌疑をも取り払ってくれたらしいけど、これまたどうやったか知らない。
その夜、ケンジはおばあちゃんから花札勝負の結果「ナツキを頼む」と任されるけど自信が持てない。
最後の戦い前後で自分が何とかしなきゃいけないけど、今ひとつ自信が持てないケンジ。
それに対してナツキ辺りがカツを入れる。
おばあちゃんが事態を解決したのはそれぞれ各省庁の知人に電話を掛けて、ハッパを掛けたからだった。
「あんたなら出来るよ、他に誰がやれるっていうんだい」
そんな事を言っていたと。
更に警視総監にも電話を掛けて、同じようにカツを入れると共に
「今、容疑を掛けられてる子に直接会ってるけど、あの子はそんな事をする子じゃない。
ウチの婿になって、きっと立派に成長して、素晴らしい事をやってくれる子だ。
だから信じてやっておくれ」
と言っていたのだ。
ナツキの語るおばあちゃんのセリフと、花札の夜に言われた言葉
「ナツキを頼む、あんたなら出来る」
がシンクロして、ケンジは諦めず敵に立ち向かう事を決意する……。
こうだったらサイコーなのになぁ。
自分を信じてくれた人間に対する恩義と、彼女を守るという約束が交錯する訳で、かなり熱いじゃないですか。
他にも色々あるんだけど、兎に角質はいいのに引っ掛かる作品でした。
「惜しい!」って感じなので、細田さんはこれからもっと凄い作品を作れる可能性は秘めていると思います。
そんな訳なので、こういった苦言は激励と思って頑張って頂きたい。
追伸
カズマの声優は保志総一朗でFAじゃね?
キャラからして既にゲイナー君なんだしさ。
キャラ的にも
名前的にも
血統的にも(陣内家のモデルは真田家)
フルマッチじゃねぇか。
それでこんな事を言うのさ。
師匠(永井一郎)「おい、カズヤ」
カズマ「カズマだっ!!!」
あとこんなのも
おばあちゃん「カズマ!!」
カズマ「おばあさま!!」
おばあちゃん「カズマぁ!!!」
カズマ「おばあさまぁ!!!」
おばあちゃん「カズマあぁ!!!!」
カズマ「おばあさまあぁ!!!!」
おばあちゃん「カズマあああぁぁぁっ!!!!!」
カズマ「おばあさまあああぁぁ!!!!!」
更にヒネリを入れるとこうなる
おばあちゃん「カズマ!?」
カズマ「おばあさま!?」
師匠「カズマ!?」
カズマ「師匠!?」
おばあちゃん「カズマ!!」
カズマ「おばあさま!!」
師匠「カズマ!!」
カズマ「師匠!!」
もし、このシーンがあったら
俺はその為だけに劇場に再度足を運んでいただろう。