暁のうた 一着入魂2 | *Aurora Luce**

暁のうた 一着入魂2

昨日までとはまた違う昼食会場に着くと、

ララメル女王と私は仲良く

『本日の貴婦人ランチセット』を注文した。

これは、昨日までお世話になってた食事会場には

なかったメニューだわ。

『貴婦人』というだけあって、

デザートもついてるみたいだからとっても楽しみ。

 

注文をして落ち着くと、ララメル女王は声を低くして、

 

「大体はフリッツに聞きましたけれど、

 昨日は…大変でしたわね。お身体は大丈夫ですの?」

「はい、おかげさまで。

 ご心配おかけして申し訳ありませんでした」

「本当に?

 女性の尊厳を脅かされるようなことはされなくて?」

「お気遣いありがとうございます、

 正当防衛でなんとか身を守りました」

 

ララメル女王にも心配をかけていたことに恐縮しながら、

私は少しおどけた調子で二の腕に力こぶを作る格好をした。

なんとなくでもこういう仕草ができてしまうのは、

ララメル女王が気さくでいい方だからだと思う。

ホク王子と私をくっつけようとしているのは別にして。

 

ララメル女王はくすっと笑うと、

 

「まあ頼もしい方ね。

 わたくし、あなたのそういうところが大好きですわ。

 でもねアレク、

 女には守ってくれる騎士がいるのが一番でしてよ」

 

そのためにも、明日の大舞踏会では

必ず運命の殿方を見つけますわよ、とララメル女王は言うと、

大舞踏会は夕刻からだから、

明日の会議が終わったらすぐに着替えられるように

今夜から衣装の確認をしておいた方がよくてよ…などと、

明日への心得を聞かせてくれた。

 

ララメル女王が私を気遣って、

心が楽しくなるような話をしてくれているような気がして、

申し訳ないなと思いながらも嬉しかった。

昨日の出来事からはもう立ち直っているんだけど、

今朝のことがまだ頭の片隅にあったから、

それを忘れさせてもらおうと思った。

 

「…前半の仮面舞踏会は社交辞令ですわね。

 背格好だけでは判断できませんもの、怖くて。

 こちらが色よい風に見せても、

 いざ相手が仮面を取ったらご老人、

 なんてことになったら大変ですのよ、本当に。

 ですけど、仮面の下が好男子ということもありますから、

 気は抜けませんわ…

 アレク、仮面は準備なさっていらして?」

 

え、仮面?

そっか、仮面舞踏会だものね、いるわよね、仮面…

 

もちろん持ってきてるわけがないので、

私は正直に告白することにした。

 

「いえそれが…とてもお恥ずかしい話なんですが、

 仮面舞踏会があることを知ったのが今朝なんです」

 

こんな変わった催物があるのに、

どうしてユートレクトは教えてくれなかったのかしら。

忘れてた、なんてことはないと思うけど。

 

そうだ、リースルさまに

仮面をお借りできるか聞いてみようかな。

きっといくつかお持ちなんじゃないかしら…

なんて厚かましいことを考えていると、

 

「まあ、そうですの!

 でしたら、リースルに借りるといいですわ。

 わたくしも、何度か借りたことがありますの。

 にしてもひどい話ですわね。

 あのお堅い方は、

 こういった催物に興味がないかもしれませんけれど、

 わたくしたちにとっては一生を決める

 大切な催物ですのに」

 

ララメル女王は、私が考えていたことと

同じことを提案してくれたので安心した。

 

やっぱりユートレクトは忘れてたのかしら。

もしかして、奴も

『リースルに借りればいい』なんて考えてたりして…

これならありえるけど。

 

私がリースルさまに聞いてみますと言うと、

ララメル女王は自分のことのように喜んで、

 

「ぜひそうなさるとよろしいわ。

 そのときは、ぜひわたくしもご一緒しますわ…

 ああそうですわ、いいことを思いつきましたわ!

 今日の会議が終わったら、

 リースルのところへ行きましょう!

 昨日お誘いした夕食の件ですけど、

 ホク王子のご都合が悪くなってしまわれたのですって。

 ですから今日も女三人、仲良くしましょう!」

 

うーん…

 

ホク王子の都合が悪くなったのは、

クラウス皇太子に呼ばれてるからだと思うんだけど、

それって私も行かなくちゃいけないのよね。

ホク王子と一緒だなんて言ったら、

ララメル女王は喜ぶのかもしれないけど。

 

ていうか、私の仮面を選ぶのに一緒に行くなんて、

ひょっとして私がつける仮面をホク王子に教える、

とかそういうことじゃないでしょうね…

 

私は会議が終わるまで返事を待ってもらうことにした。

 

ちょうど『本日の貴婦人ランチセット』が運ばれてきたので、

私が早速魚介類のパスタを食べようとすると、

 

「アレク、ドレスは決まっておいでなの?

 国からお持ちになったものがあると思いますけど、

 仮面舞踏会を知らないところをみたら、

 なんだか心配になってきましたわ」

「あ…はい、それは…持ってきてはいるのですが」

 

確かにセンチュリアからもドレスは持ってきてはいるし、

リースルさまも見立ててくれるとおっしゃってくれている。

だけど、それを言ってしまうと、

私がリースルさまの寝室で寝泊りしてることまで

話さないといけなくなるような気がして、うろたえてしまった。

 

ララメル女王はそんな私の動揺など気にせずに、

 

「それもリースルに相談してみましょう。

 あの方は衣装持ちですから、

 一人分くらいどうということはありませんわ。

 お持ちになったドレスと合わせて吟味しましょう。

 運命の殿方に出会うのですもの、

 いくら吟味しても足りないくらいですわ。

 アレクにはどんな色がお似合いかしら。

 意外と大人な色がお似合いかもしれませんわね、

 濃赤ですとか、黒ですとか…

 まあ、なんて楽しいんでしょう!

 わたくし、妹を持ったような心地ですわ!」

 

いつの間にか妹分にされた私は、

そのことは心からありがたかった。

今は久しぶりに女らしい会話を楽しむことにした。

 

 


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