暁のうた 双頭の鷲4 | *Aurora Luce**

暁のうた 双頭の鷲4

私が昼食会場の『オルメウスの間』で、

今日も『本日の推奨ランチAセット』を摂っていると、

 

「まあアレクじゃなくて?

 久しぶりですわね! 元気にしていらして?」

「ララメル…お疲れさまで…す」

 

相変わらずの華やかな声で、

ララメル女王が私のテーブルの前に現れたのだけど、

私の返答の語尾が怪しくなったのは、

ララメル女王の背後にいる人影のせいだった。

 

「…ホク王子もご一緒だったのですね、会議お疲れさまです」

 

どうしよう。今日は会いたくないなあと思ってた方が来ちゃったよ…

 

私が今どうにかなったらホク王子、あなたのせいですから!

今日はもうそのハスキーボイスに悩殺されませんわよ、オホホホホホ!

 

今日の私は既に『必殺・男前2割増攻撃』も受けて、

身も心ももうズタボロなのですわ。

他の殿方の攻撃は一切通用しませんのよ、残念でしたわね…

って、午前中のことを思い出したら軽くめまいがしてきた。

だめよ、しゃきっとしなきゃ。考えるなら寝るときに考えるのよ!

 

「お疲れさま、今日も雨がひどいね。

 市街地は大丈夫かな。こちらは高台にあるから被害はないだろうけど」

 

ホク王子の言葉に、私は反射的にむっとしてしまった。

『自分たちは大丈夫』って言っているみたいに聞こえてしまって。

そう聞こえるのは、

ホク王子になんとなく不信感を持っている

私の思い込みだというのはわかっていたので、

悪いなと思ったのだけど、止めることができなかった。

 

市街地では、そろそろ避難が始まってる頃だと思う。

貧民街の人たちも、きっと無事に避難できてるはず。

なんていったって、あの履物皇子がいるんだから。

…ラルフ皇子、厳しくしつけられてないといいけど。

 

ユートレクトが今日ローフェンディア皇子として動いていることは、

公表すると周りがうるさくなるりそうなので、

目撃された分には仕方ないけど、

聞かれない限り黙っておこうということになっている。

覚書にもそう書いてあるのを確認していたので

(もちろんこんな言葉でじゃないけど)、

私はユートレクトのことには触れずに、

差障りのない返事をしておくことにした。

 

「そうですね、早く止んでくれるといいのですけど…」

 

私がそう応えると、

ララメル女王とホク王子は私の向かい側に座り、

二人そろって『本日の推奨ランチBセット』を注文した。

仲良しさんね。

 

「アレク、今晩は何か予定はありますの?」

 

ララメル女王がいきなり聞いてきたので、

私はなんと答えていいのか一瞬迷ってしまった。

 

「あ、はい、今晩は予定が入っておりまして…」

 

あああ危なかった…リースルさまのところに泊まってること、

言ってしまいそうになったじゃないのよ。

 

ララメル女王と晩ご飯とかご一緒してもいいんだけど、

別れるとき帰り道が全く逆方向になるから、

できればあまり一緒に行動しない方がいいと思うのよね。

 

適当に私の泊まっている(はずの)部屋に帰るふりをして、

その後リースルさまの寝室に帰るっていう手も

使えるのかもしれないけど、危ない橋は渡りたくない。

そうでなくても私、演技へたくそなのに。

 

「あら、そうなですの? それは残念ですわ…ねえホク王子?」

「そうですね、夕食でもご一緒できればと思っていたのですが」

「そうですのよ、ねえアレク、夕食だけでもご一緒にいかが?」

「南方地域の食材を美味しく出してくれる料理長と

 懇意になったので、ぜひご一緒にと思ったのですが…

 いかがでしょう」

 

…どうしたのいきなり。

なによ、二人してそのたたみかけるような攻撃は。

 

南方料理…美味しそうだけど、今日はそんな気分になれなかった。

だって、市街地は市民が避難させられるほどひどい状態で、

炊き出しの準備までされてるのに、

美味しいお食事食べてていいのかなって思うもの。

 

二人は事情を知らないで言っているのだろうけど、

もしも知ってて言ってるのだとしたら、

やっぱり王侯貴族ってこんなものなのかしら…と考えてしまう。

だから、何も知らないで言ってるのであってほしい。

 

「申し訳ありません、ちょうど夕食どきからの予定なので」

 

私が浮かない顔で謝ると、

ララメル女王はとても残念そうにホク王子の顔をちらっと見てから、

 

「そう…残念だわ。それでは明日は空けておいてくださる?」

 

…明らかに二人でなにか企んでいるみたいに感じるのは

気のせいかしら。

なんだか私とホク王子をくっつけようとしているみたいに

思えるんだけど、ララメル女王、

ホク王子も狙っているんじゃなかったかしら。

 

でもね、いくらララメル女王のお願いでも、

聞けるものと聞けないものがあります。

特に今日の私にはそのたぐいの攻撃は全く通用しません。

文句は『男前ドーピング皇族服』を

今日だけ着ている人に言ってください。

 

「はい…ですが、明日にならないと予定がわかりかねますので、

 今はお約束できないのですがよろしいですか?」

「それはもちろんですわ。

 お互いに、いつ何があるかわかりませんものね」

 

そのララメル女王の声色に、

今までとは違う裏の意味があるような感じを受けて、

私の背中にすうっといやな汗が伝った。

 

 


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