暁のうた 清き泉4 | *Aurora Luce**

暁のうた 清き泉4

…一体どういうこと?

私はユートレクトの言葉を、心の中で繰り返してみた。

いい勉強になっただろう…いい勉強に…勉強…

 

あ。

 

私もだてにユートレクトの主君、3年以上もやってないわね。

わかっちゃったわよ、悔しいことに。

 

「…ああなることをわかってて、仕向けたのね」

 

ユートレクトは最初から全部わかってたんだ。

 

私がこの会議に納得がいってないこと。

それを発言したら、皇帝陛下が直々に答えるだろうということ。

だから何も口を挟まなかったんだ。

 

でもユートレクトは『中央大陸縦貫道』の会議が

あんな話し合いだってこと、教えてくれてなかった。

そもそも最初から説明してくれてれば、

イライラすることもなかったのに。

 

もしかして、それもこのためだったってこと?

 

「これで、各国からの風当たりも少しは和らぐでしょう。

 噂は回るのが早いものです。今日中にはあの武勇伝が、

 世界中の首脳たちに伝わることになるでしょう」

「武勇伝って…」

 

ユートレクトはまた言葉を改まったものにしたけど、

口調はいつも二人で話すときのままで、

私の反応をとても楽しんでおいでのようだ。

 

「何事も、話しただけでは伝わらないこともあります。

 ご自分の身をもって経験することも重要かと」

 

ユートレクトのその言葉で確信した。

やっぱり『中央大陸縦貫道』の会議の様子も、

わざと私に教えなかったんだわ。

本当にこの男ときたら…なんて危ない綱渡りさせるのよ。

 

でも、確かに身をもって知ることはできた。

お偉方の皆さんが、どれだけ自国だけの利益と強大な権力に

がんじがらめにされているかってことを。

それはよかったと思ってる。

 

そしてついでに

『天下のローフェンディア皇帝と、さしで話した平民女王』

っていう妙なレッテルまで私につけてくれたわけね…

 

偉大な宰相閣下は、

サンドウィッチを食べ終えて澄ました顔でコーヒーを飲んでいる。

私は少し気のきいたことをしてみようと思った。

 

「ユートレクト、大食漢のあなたが、

 サンドウィッチだけで空腹は満たされたのかしら…

 デザートはいかが?」

「は?」

「ごちそうしてさしあげてよ、もちろんわたくしの私費で」

「ご安心を、陛下に恵んでもらうほど、私は飢えていませんから」

 

やっぱり、素直に『ありがとう』って言わないと

この男には伝わらないのね、と思ったら、

ユートレクトはいきなり卓上のベルを鳴らしてウエイターを呼んだ。

 

「はい、何か御用でしょうか閣下?」

「ケーキを二人分頼みたい。

 ケーキの種類がメニューには載っていないようだが…」

「ご安心ください、今日お召しあがり頂けるケーキは、

 全てワゴンでお持ち致します。

 そのときにお決めくださればよろしゅうございます」

「そうか、ではお願いする」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください」

 

とても丁寧で感じのいいウエイターさんは百点満点のお辞儀をすると、

いそいそとケーキの準備をしに奥へ下がっていった。

 

…ん?

ケーキ。

『二つ』じゃなくて『二人分』って、どういうこと?

 

「陛下がお召しあがりになりたいのでしょう」

「なっ…!」

 

人がせっかく厚意を示したっていうのに、この男は…!

そういえば私、まだランチにすら手をつけてないじゃない!

 

そんな人の気も知らずに、ユートレクトは私に耳打ちした。

 

「今日は俺が出してやる、私費とはいえ無駄に使うな。

 俺はコーヒーが残っているうちにケーキを食べる。

 …もう一度ウエイターを呼ぶのは面倒だから、

 おまえも今選んで横に置いておけ」

 

人の気も知らずに…

 

そう思ってたんだけど、耳打ちしてきた話し方は、

わざとぶっきらぼうにしてるような感じがして。

照れ隠し…のように聞こえないこともなかった。

 

お互いに素直じゃないってことね、きっと。

 

「ありがとう、ユートレクト」

 

この言葉を私は今までに何度言っただろう。

きっとこれからも、何回も口にするんだろうな…

 

いいわよ。

ずっとそばにいてくれるなら、

いやって言われたって、いくらでも言うんだからね!

 

 


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