暁のうた 違う世界7 | *Aurora Luce**

暁のうた 違う世界7

私は恐れ多くも、ララメル女王に着替えを手伝ってもらいながら、

黒装束を追いかけていった後の事の次第を

ようやくまともに聞くことができた。

でも、ララメル女王の話をそのまま書くと途方もなく長くなるから、

まとめさせてもらったわ。

◇黒装束が刺したのは、クラウス皇太子の妻、

 つまり皇太子妃のリースルさまを護衛していた、

 近衛兵Aさん(ララメル女王命名)だった。

◇なので、黒装束は、

 本当はリースル皇太子妃の命を狙ったものと思われる。

◇ララメル女王がリースル皇太子妃に聞いたところによると、

 近衛兵Aさんの傷は幸いなことに浅かったらしく、

 むしろ黒装束に深手を負わせたらしい。

◇ララメル女王が、腰を抜かしながら、

 どうにかこうにか部屋にたどり着いたときには、近衛兵Aさんは、

 応急処置をしただけで部屋から出て行ってしまったそう。
 ララメル女王は、自分が部屋にたどり着くのに必死で、

 周りの音も人の姿も全く見えていなかったらしい。

◇クラウス皇太子がここにいるのは、私の大声を聞いて駆けつけたから。
 でも、クラウス皇太子があられもない格好で気絶していた

 私を発見したときは、既に黒装束の姿はなかった。
 現在も近衛兵たちに捜索をさせている。

◇私が伸びていたこの部屋は、リースル皇太子妃の管理下にある部屋で、

 『世界会議』の開催中はちょっとした衣装なども置いてあるらしい。

◇ちなみに、医務室らしきものは、

 私とララメル女王が歩いていた場所とは全く逆の方角にあるらしい。

「……というわけでねアレク、それはそれは大変だったのよ。
 リースルが無事で、近衛兵Aさんも軽傷らしくて、

 本当によかったですわ……はい、これに着替えてちょうだいな」

さっきいた部屋で、私が着替え終わるのを待っているであろう

クラウス皇太子とユートレクトに、

筒抜け間違いなしの大音量で、ララメル女王はおしゃべりを続けながら、

小さなクローゼットから手際よく衣装を選んでくれた。

もう、何も言い訳できない。

まあ、いいか。怒られる前から怖がってても仕方ないし。
悪いことしたわけじゃないもんね。

「ありがとうございます。
 本当ですね、お二人ともご無事でよかったです。
 ララメル、怖い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ、これしきのこと、国では日常茶飯事ですわ。

 月に一度は命を狙われていますもの。
 それよりアレク、あなた本当に素晴らしいわ。
 殺人鬼を、バルコニーから落ちてまでも捕らえようとするなんて!
 わたくし、あなたとお友達になれて、本当によかったわ!」

月に一度、命を狙われてる?
の割には、あの騒動でかなり動揺してたみたいだけど。
あんまり深く考えないでおこう、うん。

私は、ララメル女王が選んでくれた

リースル皇太子妃のドレスに着替えた。
サーモンピンク色のフリルがたっぷりのスカートで、

胸元にはたくさんのビーズが輝いている。
腰のところに大きな花のコサージュとリボンがついていて、

とってもかわいらしい作りになっている。

これも私に似合ってるかは、あんまり考えないでおこう。

リースル皇太子妃は洗濯などは不要、お礼に持って帰ってくれてもいい、

とおっしゃっていたそうだけど、

洗濯はお言葉に甘えるとしても、なるべく早く返しに行かなくちゃね。

それよりも今は。

「お友達などと……もったいないお言葉、恐れ入ります」

私は脱ぎ散らかした服をたたんでくれているララメル女王にお礼を言った。

まさか『世界会議』で、

お世辞でも私のことを『お友達』なんて言ってくれる人に出会えるなんて、

夢にも思ってなかったから、本当に嬉しかった。

「何を他人行儀なことをおっしゃいますの?
 いいこと、今度そんなことおっしゃったら、

 わたくし、あなたの秘密をばらしましてよ?」

ララメル女王独特の丁寧ながらもきさくな言葉に、

私は嬉しいながらも首をかしげた。

「秘密とおっしゃいますと」
「あなたの、そこにあるほくろね。とても色っぽくてよ。
 これは、恋人でなくては、なかなか見られないものですもの。

 大いなる秘密だと思いますわ。オホホホホホホホ!」
「……!」

だからそういうことを、ほくろを指差しながら、

大音量で言わないでくれるかなあああ!!

「そろそろ男性陣もしびれを切らせているかしらね。

 さあアレク、参りましょうか」
「……は、はい」

クラウス皇太子のご助力も虚しく、

ユートレクトに顔が合わせづらい要素が大幅に増して、

私はララメル女王と衣装室から出た。

 


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