前回の記事の続きで、「ブートストラップ」の概念をもう少し精査するために、「ブートストラップ―人間の知的進化を目指して~ダグラス・エンゲルバート、あるいは知られざるコンピュータ研究の先駆者たち」(ISBN:4-87566-256-4)という書籍を取り寄せてみました。

最初のほうに、ブートストラップの言及があるので、まずは引用から。(少々長くなりますが、意味をきちんと掌握するためには大切と思い、全体を引用します。)

--------------------引用ここから(P.54)----------------------------
エンゲルバートは、二十世紀中にくつか異なる意味を得た、彼が言うところの「ブートストラップ手法」を取り上げた。一九一三年には、この言葉は名詞として「手助けなしの努力」や「編み上げ靴を履くときの助けとなるよう、側面または上端に縫いつけられたつまみ革」を意味していた。この言葉は一九二六年には形容詞として、「外部の命令からは独立して機能するように仕組まれている、またはある内部機能またはプロセスを使って別の内部機能またはプロセスを制御できる」ことを指すようになった。一九五一年には「ブートストラップ」はとうとう他動詞になり、「ほとんど何の助けもなしに、自らの決断や努力で促進または展開させる」ことを意味するようになった。ほとんどの読者は、これの動詞形である「ブートする」という言葉になじみがあるだろう。これは、「オペレーティングシステムをマシンにロードして初期化する」という意味で使われる。(24)

エンゲルバートは一九二六年の原論文では「ブートストラップ」という言葉は使っていないが、「研究勧告」の中では、「仕事を進める手段を改良できる有望な研究結果を研究者がフィードバックする」ことは「研究目的に対して莫大な価値がある」と指摘している。(Engelbart 1962, 118)一九六八年に全米情報処理学会秋期合同コンピュータ会議で行った講演で、彼はこのような研究社たちを「より効果的に任務を果たすための道具や技法を開発するという、興味深い繰り返し任務を与えられたブートストラップグループ」と呼んでいる。(Engelbart 1968, 396)
 この手法の原理は、研究プロセスにおけるポジティブフィードバックというサイバネティック的な概念に基づいている。
--------------------引用ここまで(P.55)----------------------------

ちなみに本文中の引用文献は次の通り。
- Engelbart, D. C. 1962. "Augumenting Human Intellect: A Conceptual Framework." Report to the Director of Information Sciences, Air Force Office of Scientific Reerach. Menlo Park, Calif.: Stanford Research Institute, October.
- Engelbart, D. C. 1968. "Augmenting Your Intellect." Research/Development, August: 22-27.


さらに、注記として次のようなコメントが残されています。

--------------------引用ここから(P.382)----------------------------
歴史的注記:この用語は、カードまたは紙テープから読み込まれるか、またはフロントパネルのスイッチで入力される短いプログラムである「ブートストラップ・ローダー」に由来している。このプログラムは、常に非常に短いものではあるが(入力の手間とスイッチのトグル入力の際にエラーが起きる機会を減らすために、これを短くするための大きな努力が払われた)、それが次に渡す先であるもう少し複雑なプログラムを読み込む(普通はカードリーダーまたは紙テープリーダーから)には十分なだけスマートなものだった。このプログラムは、次に磁気テープ装置やディスク装置からアプリケーションやオペレーティングシステムを読み込むに十分なだけスマートに作られていた。こうして、コンピュータは次々と自らの「ブートストラップによって自らの状態を引き上げて」実用的な稼動状態にもってゆく。現在では、「ブートブロック」から第一段階のプログラムを読み込む。このプログラムが制御権を握ると、それは実際のオペレーティングシステムをロードするに十分なだけ強力であり、それに制御を渡すことになる。
--------------------引用ここまで(P.383)------------------------------

つまり、6月6日の記事で書いた、「booting processがchainであるというのは、エンゲルバート博士が導入した概念かどうか」というのは、正確には"chain"というより、スパイラルであって、元来サイバネティックスのほうから出てきた概念ということになるかと思われます。

この本にも「メタファー」という言葉が繰り返し使われていますが、このようなコンピュータ用語を本質的に理解するのを難しくしているのは、比喩であるように思われます。つまり、比喩として使った用語をさらに比喩として使っているような。

もう少し読み込んでみてからまた概念を整理したいと思います。

※このブログにおける引用は、学術的(語源学的)研究を目的としています。