偉大なるイザベル女王が亡くなると、カステーリャ王国の、継承者女王としてホアナは夫とスペインに戻ったの。

けれど彼女の頭越しに、夫と父親のフェルナンドは、統治を我が物にしようと争そい続け、ホアナはひどく胸を痛めたのね。

彼女の想いを他に、父と夫の争いの中、夫の愛を繋ぎとめるかのようにホアナは、六人目を子を身ごもっていた。

そして突然の夫の死。果たしてフリップの死は病死だったのか・・

ついに彼女の正気の細い糸は切れてしまい、前記事の絵に描かれた、彷徨う葬列をはじめる。

冬の荒涼とした野に、十字架を掲げたこの葬列は、夜通し歩き詰めた疲労感が、侍女や従者にも色濃く滲み出ている。

遠くに見える修道院風の建物でなく、このような荒野で蝋燭を灯しミサをあげる異様さ。

虚ろで強ばった表情のホアナは、ひざ掛けも足元に落としたままで、明らかに妊娠している腹部のふくらみ。

立派な黒塗りの寝棺は、双頭の鷲の紋章入りで、敷き布にはブルゴーニュの紋章も見える。

全く異様としかいえぬ荒野のミサの様子が、生々しいリアリティを伴って描かれていますの。

愛する夫の死を受け容れられず、生き返るかもしれないという希望。遺体をハプスブルグ家に奪われ引き裂かれるのではないかという不安。

フリップが望んだグラナダに埋葬するという理由で、移動は常に夜で、度々突然ミサを行い、防腐処理をした遺体を確かめたという。

この彷徨う葬列は二ヶ月とも半年続いたとも、三年ともいうが、さすがに父親のフェルナンドは、ついに29歳のホアナを、トルデシーリャスの宮殿に霊閉する。

けれどこの霊閉生活は、統治能力の無い彼女には、
むしろ心から夫を偲ぶ穏やかな暮らしだったのかもしれない。

プラティーリャは晩年のホアナの霊閉生活も描いている。女官達に世話されながら、75歳の長命をまっとうしたのね。

狂気の発作は収まっていたものの、カステーリャ女王の座は父親に渡そうとはせず、最後まで書類にはカステーリャ女王とサインをしたと云う。

ここでも、実はホアナは狂ってはいず、母親イザベル譲りの実務能力に長けていて、狂女をつくろって父親に抵抗したのだという異説もありますの。

何十年も霊閉された王家の美女といえば、ジョージ一世の妃、ゾフイア・トロデアがいますが。

彼女は自分の悲運と交換するように、フリードリッヒ大王という、傑物をこの世に送り出していますの。

そしてホアナも長男カール五世(カルロス)を産む事で、「陽の沈むこと無き国」スペインの繁栄を築いたのは皮肉というか、女が居なけりゃ歴史もまた無いと。

歴史は夜作られるの確証になるのですね。

    桃林の桃源郷
2004年スペイン製作の映画「女王フアナ」
ピラール・ロペスはいかにもスペイン美女でやす!