原書房が発行しているイギリスの出版社のThe Edible Seriesの翻訳版。いろいろ取り上げてきたが、今回は牡蠣が主役だ。牡蠣なんてと思っていたが、甘ちゃんだった。牡蠣の姿は、約2億年からほとんど変わっていないというから驚きだ。そして、生まれた時と後で性が変わるというからさらに驚いた。基本的に生まれた時はオスで、後になってメスに代わる。中には、一生に何度も性別を変えるものがあるそうだ。

 

 

 

 

 

 牡蠣は見かけによらず、デリケートだ。繁殖する場所と時期を選ぶ。湾や河口や岩礁のような、海水に淡水が混ざっているところで、水温が最低でも10度以上必要なので、初夏に産卵を行う。

 

 

 

 

 

 

 牡蠣の養殖に日本の役割が大きかったとは知らなかった。19世紀末のアメリカ西海岸での海洋汚染と乱獲による数の激減に、日本の宮城県産のマガキを送って繁殖に成功した。そして、1960年代にフランスの牡蠣が病気で危機に瀕したとき、日本のマガキがそのピンチを救った。そして、2011年の東大震災が起こった時、フランスの牡蠣業界が宮城県の牡蠣養殖業者への支援をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 人類は、牡蠣を16万4000年まえからたべていたことがわかっている。南アフリカのモーセル・ベイというところで、「人類発祥の地」と呼ばれていて、牡蠣の養殖がおこなわれている。オーストラリアのアボリジニの人々が牡蠣を食べていた証拠がある。クイーンスランド州にあるウィットサンデー諸島国立公園に牡蠣を描いた洞窟がある。

 

 

 

 

 

 

 中華料理にはオイスターソースがある。李錦裳(りきんしょう)という広東所に住む人物がオイスターを発明したと伝えられている。しかし、彼がいたよりも前にあったという学術誌に載っていた。李錦裳は、オイスターソースの作り方を考えて商品化した初めての人物としている。今では、世界中の調味料を製造販売する「李錦記(りきんき)」という大企業になっている。

 

 

 

 

 

 日本では、16世紀に現在の広島県に当たる地域で牡蠣の養殖が始まった。江戸時代に、牡蠣の有名な産地は九州地方と伊勢(現在の三重県)だった。

 

 

 

 

 

 牡蠣に対するイメージの中にセクシーがある。というもの、どこの誰が思いついたのかわからないが、あの形が女性器にそっくりと考えられていることだ。古代ギリシアでは、牡蠣をはじめとする2マ以外は、神々とセックスとつながっていた。そこからはるかかなたの17世紀オランダでは、女性的なものを暗示するために、静物画に牡蠣がよく出てくる。牡蠣がエロティシズムを表すとは知らなかった。人間の妄想力のなせる業だな。

 

 

 

 

 

 現在では、牡蠣は食べるのみならず、環境を改善するエコな存在としても活躍している。1個の牡蠣には、何と1日に190リットルの海水をろ過する能力がある。小さいながらも大きな力を発揮する牡蠣のこれからに注目していきたい。