「蛾と鯨は、関係があった」と書かれていた。それを見て、一瞬、季節外れのエイプリルフールか、東スポの見出しのように思った。

 

 

 

 

 

 

 しかし、著者の鈴木孝夫さんは、言語社会学を専門とされた慶応大学名誉教授なので、嘘を書いているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 ギリシア語で、ファライナと言う単語の意味に、「蛾」と言う意味と「鯨」という意味がある。それについて、著者は、長年疑問に思ってきたと書いている。ところが、アメリカの大学の図書館に飾ってある鯨が水に潜る瞬間を捉えた写真を見て次のことをひらめいたとある。それは、鯨の尾と蛾の形が似ているからではないかということであった。ギリシア人は、鯨という生き物を見たことがなかったので、自分達がよく知っているものを当てはめたところ「蛾」という結論に達したようだ。

 

 

 

 

 

 

 よく日常生活でも、「未知」のものを表現するのに「既知」のもので表すことがあるので分かる気がする。しかし、どうして「蝶」ではなく、「蛾」なのかという疑問が残るが。

 

 

 

 

 

 

 この本の面白いと思ったのは、そこだけではなかった。言語には、「テレビ型言語」と「ラジオ型言語」があると述べている。英語、仏語などのアルファベットを使用する言語は、「ラジオのように音(音声)だけで十分な伝達ができる」とある。その一方、日本語の場合、「多くの場合、音声と映像の両者を必要とするテレビの性質を持つ言語」と述べられている。なかなか面白い見解だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 後、著者が、力説しているのは、日本語が誤解されている点である。よく、日本語は、島国で使われているマイナーな言語だの、西欧語と比べて遅れていると言われている事について反論されている。日本の人口は、1億2000万人もいるのでそう考えるだけでも、「大言語」とおっしゃっている。その上、明治維新以来の日本の近代化を成し遂げることができたのは、植民地にされた国のように外国語ではなく、日本語という母語で教育を受けてきたためである。

 

 

 

 

 

 

 

 そういう点を踏まえて、鈴木さんは、日本語は捨てたものではないと言うことで、「日本語教のすすめ」というタイトルにされたのかなと思った。

 

 

 

 


日本語教のすすめ (新潮新書)/鈴木 孝夫

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