トヨタ種類株は是か非か?議決権行使助言会社の意見が真っ二つ!!? | 証券マンのパパ日記

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どもです。ookamiです。

トヨタの種類株を巡って世論は真っ二つに割れ、6月16日に開催される総会で決議される発行のための定款変更へ向けて、議論が巻き起こっております。2/3の賛同を得ないといけず、世の中はプロキシーファイトだとの盛り上がりまで見せておりますw

手前個人としましては、先日言及しました通り、発行を応援したいとの立場ですが、資本市場に身を置くものの一人としてはあまり表立ってお薦めできるものでもありません。
私個人と、証券会社の一サラリーマンの立場とで、利益相反があるような類の議論ではなく、証券会社の中で、投資家側にたつべきか、発行体側にたつべきかで利益相反がありえます。なので、証券会社の人間としては意見を表明しにくいというわけです。正直、決定的にどちらが良いという話でもありませんし。
個人的な見解は先日の記事をご参照。

トヨタが種類株式5,000億円の発行計画。安易な株主還元への警鐘!」(2015年5月4日)




今回は、総会直前でもありますし、ニュートラルに皆さんの意見を聞いてみましょう。
いずれも間違ってはいないと思います。あとは資本主義の物事の決め方、多数決に委ねるべきでしょう。




まず、議決権行使助言会社ですが、大手二社の意見が別れております。

トヨタの種類株に批判の声「安定株主化が狙いか」-株主総会へ(出所:Bloomberg)
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議決権行使助言の米グラスルイスは「財務の柔軟性に資する」とトヨタの提案に賛成した。
一方、米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、「安定株主が増えると経営の規律が失われる恐れがある。普通株の株主を種類株の株主に置き替え、従順な安定株主を増やそうとしているのでは」と反対を表明

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その他にも、いくつか引用しましょう。
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フィデリティ投信の三瓶裕喜調査部長は、「譲渡自由な株主が納得して長期投資をするのが本来のコーポレートガバナンスコードの趣旨のはず」と指摘。
「持ち合い解消で失う可能性のある銀行など主な安定株主は5%程度」と試算し、トヨタが発行上限を5%未満としていることから、新たな安定株主にしようとしている節があるとみている。

全米第2位の年金基金であるカリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)は8日、トヨタの種類株について「日本国内の株主だけの恩恵に資するもので、すべての既存株主、特に海外の株主にとって最大限に配慮したものとは言えない」と反発。保有する430万株で反対票を投じると発表

米運用会社ハリス・アソシエイツのデービッド・ヘロー最高投資責任者も、「一筋縄でいかない感じだ。トヨタの目的が見えてこない」と話す

企業の持続的成長を目指すアベノミクスの一環として「伊藤レポート」でROE重視の経営を促す一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授は、「個人株主に長期保有してほしいトヨタ側の狙いは非常にいいことだ」と評価。ただ、発行価格で買い取るという「元本保証により実質的な社債保有者に議決権を与えることになる」と問題点を指摘した

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(出所:Bloomberg)



賛成派を擁護する記事としてはこちらですね。
トヨタ、新型株にかけた執念 「グーグルショック」背中押す(出所:日本経済新聞)



長期にわたる不確実性の高い投資を続けるためには、譲渡制限付きにでもして、確実に長期にわたる資金を提供してくれる株主が必要だということだそうです。
トヨタは15年3月末の個人株主の比率は11%で、上場企業の平均の2割弱を下回っているようですし、実際は銀行に代わる安定株主を個人に担って欲しいというところもあるのかもしれませんが、表立ってはあくまで投資と出資のマッチングみたいですね。

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トヨタ広報担当のニコラス・マクスフィールド氏は、「トヨタの政策保有株はサプライヤーや提携先企業とともに競争力を高めることを目的に、一つひとつ熟慮した上で実施している投資だ」とし、株式持ち合いの解消を促す「コーポレートガバナンスコードは影響を受けない」と語った。
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(出所:Bloomberg)




ちなみに、市場関係者(投資家サイド)の普通の意見としては、こちらのほうがメジャーではないかと思いますので、こちらもご覧ください。

コラム:トヨタの新型種類株、追随の価値なし(出所:ロイター)
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トヨタが発行を目指す「譲渡制限付き非上場種類株式」(AA型種類株式)は、実験室にとどめておくべきだった。
トヨタは長期保有目的の投資家を確保しようとして、あまり会社のためにならないばかりか、既存株主にも不利益を与えるという、さながら「ポンコツ車」のような新型証券の計画をまとめた。他の日本企業が追随しないよう望むばかりだ。
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考えるべき観点は二つあると思います。

一つは、規律と安定のバランスです。5%の株主が固まることを、規律が緩むと考えるのか、安定性(株主構成のではなく経営の、ひいては経営成績の)が増すと考えるのか?

もう一つは、AA種類株式の発行によって、既存株主の利益が棄損されているのかどうか。
これには、テクニカルにはオプションの知識が必要ですので、少し解説を加えておきます。
トヨタ種類株は、法的な観点はともかく、条件設定するにあたってはCB(転換社債)と同じプライsング・モデルで考えるべきでしょう。

つまり、発行価格は普通株式へ転換するというオプション価値をもって評価されますが、オプションは、ほっとくと価値がないものなのに、健在化させると価値が出るものですので、オプションをトヨタが作ること自体は誰が損でも得でもありません。

(転換社債の評価については、ここで少しばかし言及しました。)
個人投資家のバカな質問1。転換社債(CB)の価値を少しばかり説明しよう。」(2015年5月28日)



問題は、このオプション価値を割安に設定していないかということ。割安に設定していれば、それは損ではありませんが、既存株主がとれる利益の逸失であり、その利益を新しいAA種類株主に流す行為になります。
その利益を逸失する行為を正当化できるかというのが一つ目の経営成績の安定化に資するかどうかで、それはまた別の議論です。


では、割安に設定されているのか?
一義的な答えは"割安"だと思いますね。

但し、譲渡制限されているということが、定性的に相当なディスカウントを産みますし、そのディスカウント具合が機関投資家にとっては大き過ぎるので、機関投資家は買えません。
5年間継続して持っても良いという前提にたてば、相当割安に設定された条件ですが、その前提がなければ割高?過ぎて買えないという内容です。
また、議決権の価値をどれくらい織り込むべきかも非常に定性的な判断です。

AA種類株式も一つの金融商品ですから、当然に需給によって値段は決められるはずで、そういう意味では、割安でも割高でもありません。見る人によって変わるということ以上でも以下でもないと思うのです。
しかし、そもそもこの前提を一般条件としての前提として扱ってよいものなのかどうか?前提にもならずに"ありえない"というのが機関投資家の声である気もします。

機関投資家は買えないけど、彼らも割安過ぎると判断したとすると、その割安具合を補ってまでやる必要のあることなのか?





さて、このトヨタの種類株を巡って、証券会社の実務専門家の間でも、いくつかの議論の場が設けられました。
利害の対立する者達の集まりですから、結論を得るものではありませんでしたが、相当に示唆に富むディスカッションでした。かなり面白かったので公表の場にさらして議論を呼び起こしたい衝動にかられますが、それは今はまだ自粛しておきましょうw

いつも後手に回る日本の資本市場の中で、資本主義への問題を提起するかの如く登場したトヨタ種類株は、日本の資本市場が独自の発展を遂げる上で避けては通れない議論なのかもしれません。

今後もまた逐次アップデートしていきたいと思います。
さしあたって、16日の株主総会を見守りましょう。



ではでは( ̄▽+ ̄*)