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EF65 1000番代が貨物列車を牽引しています。
これだけだったら、別に珍しくも何ともないビジュアルですけど、それはあくまでも20世紀でのお話し。21世紀になればやはり、おとぎ話の世界になるでしょうし。このカモレが何線を走っているかで、そのレア度はさらに高まるのではないでしょうか。

昭和のアラフォー、アラフィフの鉄道マニアなら、ここが何処だか判るでしょうし、平成生まれのお子ちゃま鉄道マニアでも背景で 「えっ!? マジっ!?」 と驚愕するに違いありません。勿体ぶらずに説明すると、EF65牽引のカモレが走る線は山手貨物線です。今でこそ、埼京線や湘南新宿ラインの電車が走る首都圏第一級の重通勤路線にのし上がりましたが、昭和国鉄の時代は、基本的には貨物専用線。営業用の旅客列車が走るというのは殆どありませんでした。しかも、電化されたのは比較的近年 (・・・それでも60年以上は経っていますけどね) の昭和29年のこと。それ以前は非電化で、D51、D52といった蒸気機関車が貨物を牽引していました。

先程、 「山手貨物線は埼京線や湘南新宿ラインが走る首都圏第一級の重通勤路線だ」 とお伝えしましたが、武蔵野線が開業するまで、山手貨物線は首都圏第一級のの重貨物専用線でした。東京駅に貨物列車が乗り入れないのは戦前からですけど、東北方面からやって来た西日本方面行きの貨物列車は必ず大宮操車場や田端操車場を介して山手貨物線を経由し、新鶴見へと向かっていきました。 「日本三大操車場」 といえば、新鶴見操車場、稲沢操車場、吹田操車場ですけど、大宮と田端、そして新鶴見はさしずめ 「首都圏三大操車場」 と形容出来るほど、その規模はハンパありませんでした。大宮は東北や上信越方面から、田端は常磐・総武方面からやって来た貨車の仕分けをメインとしていまして、組成し直して山手貨物線を通ることになるのですが、隅田川駅や汐留駅はあくまでも貨物駅で、ハンプやカーリターダなどの操車機能は無かった筈です。

前述のように、電化が完成したのは昭和29年ですけど、それからはEF10やEF13、そしてEF15といった旧形電気機関車の “シマ” となって、日常的に見ることが出来ました。また、旧EF58を貨物用に転用したEF18も一時期、山手貨物線を闊歩していたこともありました (当時、浜松機関区で大宮操までの仕業があったため) 。

山手貨物線は貨物専用線だったというのは先程来からお伝えしている通りですが、やって来るのは何も貨物列車だけではなくて、旅客列車も走っていました。有名なのが新宿-日光間を結んだ準急 「中禅寺」 ですけど、それ以外でもパンク寸前だった上野駅をフォローする形で、品川発着の東北・上信越方面への臨時列車が盆暮れを中心に運転されていました。それが山手貨物線を走る旅客列車のはしりと言えましょう。
日常的に山手貨物線を使う列車に、工場入出場を含む回送列車や荷物列車、団体臨時列車、車両基地から車両基地への転配列車といった非営業列車があり、そのバリエーションは種々雑多で、1日中へばり付いていれば何かしら、 “変わった列車” がやって来たそうです。そしてそういったイレギュラーの列車の中で、一際目を引いたのがお召し列車でしょうね。原宿にある宮廷ホームから発着するお召し列車は、北へ行こうと南へ行こうと、必ず山手貨物線を経由することになりますので、事前に情報が入ると山手線のホームには人だかりが出来ることになります。回送列車や配給列車などのイレギュラー列車が運転される場合は、官報や局報といった国鉄の部内報でその状況が把握でき、尚且つ、その情報は国鉄の部外者でも手に入れることが出来たそうなので、コアなマニアはそういった情報を片手に、繰り出していたわけですが、さすがにお召し列車の場合は運転スケジュールが極秘裏になっていた筈なので、何処かで情報漏洩したことになるのですが、その瞬間をキャッチ出来た方はある意味、幸せ者かもしれませんね。

貨物列車が減少傾向にあるとは言いつつも、それでも山手貨物線は飽和状態が続いていたので、それを緩和する目的で、武蔵野線は建設されました。開業は昭和48年のことですが、それを機に基本的に東北→東海道方面の貨物列車は武蔵野線を経由することになり、山手貨物線経由の列車は常磐方面から田端操を介した列車がメインになります。さらに、旧形電気機関車も老朽化が目立ち始め、いつしかEF60やEF65といった新世代の電気機関車が勢力分布図を塗り替えることになります。最後まで残っていた旧形電機はEF15だったと思います。そして、慢性的な混雑をどうにかしようと、池袋止まりだった埼京線が新宿まで乗り入れたのが国鉄末期の昭和61年で、さらに平成8年には恵比寿まで、そして平成13年には湘南新宿ラインも開業して、山手貨物線は完全に旅客線としての性格を得ることになります (埼京線の大崎乗り入れは平成14年から) 。

今でも、1日に1~2本が山手貨物線を経由する列車があるみたいですが、全盛期に比べるとそれは無いに等しいですよね。それこそ、1日中へばり付いていれば、何が来るか分からないのが山手貨物線の魅力であり、今では考えられませんよね。

【画像提供】
ヤ様
【参考文献・引用】
鉄道ピクトリアル No.894 (電気車研究会社 刊)
ウィキペディア (埼京線、湘南新宿ライン)