ウナギの話が来たおかげで

何とかその場は持ちなおし


華乃屋さんのことをつまみ代わりに


先生はぽつぽつと語った


一見、めんどくさそうな人こそ

自分の糧になるとか


医師では取り除けない欲をうまくかわし

快方に向かわせることができるチームメイトは頼もしいとか


・・・・・


そんなこと思って仕事してたんだなって


思った



いつにもまして落ち着いた声で想いを放つ


先生、酔ってるな、完全に。


「あ」


空になった中瓶


「追加するか」


インターホンを押そうとする手を止めた


「いえ、先生、もう・・・」


「なんだ、もういいのか?」


「その…私はいいんですけど…先生、のほうが・・・」


「私が何か?」


「紺屋の白袴になりかねませんから」


「医者の不摂生とな?」


「ご名答」


テンポのいいやり取りに

目じりが下がる先生


涙袋がほんのり櫻色で


―サワリタイ



え!


なになに今の思考


確かに、勝手に思う分にはいいけど

勝手に出てきた言葉の内容が内容なだけに



「・・・私まで止められるとはな・・・」



「華乃屋さんと同じではないか」


唇の先がつん、と尖って


悔しそうに上目になる


「そ、りゃあ、そうですよ、看護師の役目ですっっ」


一気に何にかを畳みかけられそうなのを

押さえるのに必死だった


「・・・・・良きパートナーであるな」


ふわふわと笑う先生。



・・・・・・・分かっています


看護師としてそうであるってことは。


でも


駄目だ


言葉の意味を深追いしすぎて

勝手に動悸が起きています


「・・・・・先生、便所行ってきます」


立ち上がって向けた背中に


「婦女子に便所とは似合わぬぞ」



滑り良く閉めた背中の後ろの襖


赤茶けた光沢のある板張りの上


膝の力が抜けて



涙が出そうだった