何となく不気味に思えるほど、うっすらと赤みを帯びた満月が、漆黒の夜空を妖艶に彩っていた。
そんなブラッドムーンが君臨する夜、あなたは、自宅近くの公園で行われている月光蚤の市へと、冷やかしがてら、出掛けてみることにした。
広々とした公園の敷地内に足を踏み入れると、いわくありげなアンティークの品々を扱う露店が、ひしめき合うように、所狭しと並んでいた。
銀製のスプーンやエッグスタンド、真鍮製(しんちゅうせい)の手鏡や、ロケット付きのペンダントなど、細々とした品物を取り扱っている露店もあれば、足踏みミシンや、ステンドグラスの飾り窓が嵌め込まれた木製の扉など、比較的大物を扱っている露店も見受けられた。
それ以外にも、アンティークレースやブリキ製の玩具など、種々雑多な品物を取り扱う露店もある。
その合間を、怪しげな黒装束を身にまとった人々が、時々立ち止まりながら、ゆっくりと逍遙(しょうよう)している。
あなたは、彼らに混じりながら、品揃え豊かな露店を眺めて歩いた。
そうしているうちに、人との出逢いと同じようにして、アンティークの品々との出逢いを求めて彷徨(さまよ)っていることに気付いた。
そんなふうにして歩き回るのは、身体にアルコールが沈澱している時のように、少し気怠くて、ふわふわと心地が良い。
数々の趣のあるアンティークの品々が囁き掛けてくる、元の持ち主にまつわる物語の氾濫に、早くも酔いしれているのかも知れない。
そんな中、あなたの目に留まったのは、深緑色の木の葉の形をした小皿だった。
それは柊(ひいらぎ)の葉のように、縁がギザギザしたデザインになっている。
その小皿は、木の葉の形をしているという以外には、特に何の変哲もない小皿に過ぎなかった。
それなのに、あなたの壺に妙に嵌まる何かがあるのだった。
しかし、これから一蓮托生となる運命的な物との出逢いとは、得てしてそういうものだ。
それを見ただけで、そこはかとなく何かを察知し、それに触れただけで、これは自分の手許に来る物だと分かる。
あなたは、木の葉の形の小皿を撫で回し、釉薬(うわぐすり)で仕上げられている滑らかなコーティングや、縁のギザギザした感触を確かめると、その品物を取り扱っている露店商と、古い想い出と交換するための交渉を始めた。
露店商は、夜であるにもかかわらず、小さめのサングラスを、無造作に、鼻の頭に乗せていた。
まるでロックミュージシャンのような、とっぽい風情を漂わせている。
彼は、木の葉の形の小皿を見るなり、意味ありげににやりとした。
そして、丸縁のサングラスを軽く押し上げながら、こんなことを口にした。
・・・虹色蛍が乱舞する夜〈中編〉へと続く・・・
佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム