民主党が取調べの録画・録音による可視化法案を提出 | 日本とその隣人たち。

民主党が取調べの録画・録音による可視化法案を提出

民主党が12月5日に参議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(取調べの録画・録音による可視化法案)を提出した[*1] 。この法案ではビデオ等の録画・録音による取調べの可視化に加え、録画等のない自白の証拠能力の否認を定め、さらに、検察官手持ち証拠リストの開示も義務付けている。

最近の冤罪事件としては、大阪高裁所長襲撃に関する冤罪事件、富山県氷見市の強姦冤罪事件、鹿児島県曽於郡志布志町(現・志布志市)の選挙違反冤罪事件などが存在するが、これらの事例ではいずれも取調べ段階での自白が強要に基づくものであると認定された一方で、警察・検察側の論証に問題点が多数あることが指摘されている。一般に、取調べ段階での自白の強要が冤罪の要因になるといわれており、冤罪が疑われる事件の多くは自白の任意性が主要な争点の一つとなっているし、実際に自白の強要が認定され、無罪判決が出ることもある。

こうした事例を受けて検察庁は取調べの録音・録画を部分的に行っており、裁判において証拠として提出されたこともある。

したがって、取調べ段階での自白の任意性が検証可能となることはこうした冤罪事件を防ぎ、また犯罪の捜査・裁判が適正に行われることを促す意味で当然に必要なものであるといえる。

言うまでもなく、罪を犯していないにもかかわらず不当に身体などの自由を奪われることはあってはならぬことである。そして、刑事事件の真実が歪められることは、当該事件の真の解決、さらには当該犯罪にかかわる法益の保護を不可能にしてしまうだろう。それゆえ、冤罪は回避されなければならないのである。

ただ、単純にこの制度の整備によって問題が根本的に解決するものではない。自白の強要が行われるのは警察・検察および裁判所側の自白偏重の姿勢によるものであり、したがって、こうした姿勢を改め、物的証拠を中心とした捜査を行うことが必要である。そのためには証拠収集権限の強化、および収集された証拠の開示の義務付けを図る必要があるだろう。

もっとも、証拠収集権限の強化に関しては、人権の見地から反対の意見が強い。重要なことは、取調べであれ、盗聴などその他の証拠収集行為であれ、それが適正に行われていることが外部から検証可能となることである。

警察においては他にもファイル交換ソフトによる情報流出や裏金問題といった不祥事が多数発生している。警察だけでなく、現在、薬害肝炎や年金記録漏れ問題に関する厚生労働省(年金記録漏れについては社会保険庁も)の対応、防衛省(旧・防衛庁)の守屋元次官の接待疑惑など、中央省庁の不祥事がいくつも取り上げられ、問題視されている。このような中央省庁の失態は今に始まったことではなく、古くから変わらず続いていることであり、近年になってその一端が明るみに出ているにすぎないのだろうが、おおよそ日本の官僚機構自体が自己を律する機能に欠け、また外部からの検証が困難な状況にある、というわが国のあり方にかかわる根本的な問題が存在するといえる。

もとより国家機関の運営が適切に成されているか否かは国家自身の自己統制と共に外部の厳しい監視の下におかれなければならない。とりわけ、警察・検察のような国家権力の直接の発動の機会となる場においてはなおさらである。今回の刑事訴訟法改正案がその一つのステップとなることを望みたい。

蛇足だが、12月7日、法務省は初めて死刑執行を行った死刑囚の氏名や犯罪事実、死刑の執行場所を公表した。これも司法の適正化を図るために、その運用の実態がより透明化されたという点では妥当だといえるだろう。

[*1] 民主党, 取調べの録画・録音による可視化法案を参議院に提出