教育・子育て支援の抜本的拡充を求める

以下の文章は、4月上旬に「議会と自治体」に寄稿した文章をもとに、その後の動き等を若干加えたものです。

 

 岸田首相が年頭の記者会見で打ち出した「異次元の少子化対策」の具体化として、3月31日、小倉將信こども政策担当大臣が、「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて」(以下、「たたき台」)を発表しました。少子化傾向を反転させるため、今後3年間で取り組む施策と将来像を取りまとめたもので、6月の「骨太方針2023」に向け、さらに検討を深めていくとされています。

 

 「たたき台」には、日本共産党が国民運動と一緒になって求め続けてきた児童手当の18歳までの延長・所得制限撤廃や保育士の配置基準改善、こども医療費助成実施自治体へのペナルティー廃止などが盛り込まれました。学校給食は「無償化に向けて課題の整理」が記されましたが、検討に終わらせてはなりません。一方で、「たたき台」には、大きな問題がいくつもあります。

 

 

 

1、肝心の施策が抜け落ちた対策

 

 

 

 結婚をするのか、しないのか、子どもを持つのか、持たないのか、こうしたことは、一人ひとりの生き方の選択であり、政治が口をはさむようなことがあってはなりません。しかし、日本ですすむ少子化傾向の背景には、一人ひとりの選択の実現を妨げる社会的障壁を自民党政治が作り出し、あるいは、放置し続けてきたことがあります。それを取り除くことは、政治の責任です。

 

 「たたき台」では、少子化の背景として、「経済的な不安定さや出会いの機会の減少、仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育ての孤立感や負担感、子育てや教育にかかる費用負担」などを指摘しています。しかし、「たたき台」は、これらの課題を解決する上での肝心の施策が抜け落ちており、極めて不十分です。

 

 日本共産党国会議員団は、今国会、志位委員長の代表質問で、政府の少子化対策に、教育費の負担軽減が抜け落ちていることを指摘し、教育の無償化・給付制奨学金拡充・奨学金返済半額免除に取り組むことを繰り返し求めてきました。夫婦が理想の子どもの数を持たない最大の理由は、教育費の高さ、とりわけ、大学・専門学校や私立高校の授業料の高さです。日本の私立大学の初年度納付金(平均)は130万円をこえます。ところが、「たたき台」は給付型奨学金を現状の年収380万円までから、年収600万円までの多子世帯・理工系学生に広げるだけです。現在、年収590万円までとなっている「私立高校の無償化」の対象拡大もありません。「授業料後払い制度」を、まずは修士段階の学生から導入するとしていますが、授業料を引き下げるのでなく、借金とするものです(この制度のはらむ問題は後で述べます)。当事者が最も切実に求める教育無償化に、正面から取り組んでない点は、「たたき台」の最大の問題点の一つです。大学・専門学校は無償化目指し、直ちに半額にし、高校は全面無償化すべきです。

 

 同時に、賃金引き上げ・雇用の正規化で、若い世代の「経済的な不安定さ」を改善することは、最重要課題です。若い世代の「経済的な不安定さ」の大きな要因は、政府と財界が不安定で低賃金の非正規雇用を広げてきたことにあります。ここを根本から改める取り組みが求められます。「たたき台」も「賃上げ」「非正規雇用の正規化」を記しますが、具体的な政策がありません。日本共産党国会議員団は、労働者派遣法などを改正し正規雇用の転換をすすめること、同一労働同一賃金、中小企業への支援とセットの最低賃金1500円、男女賃金格差の是正、ケア労働者や非正規公務員の抜本的な処遇改善などを国会で提起し続けています。財界の儲け優先の雇用政策の転換が必要です。

 

 日本共産党は少子化対策にとってジェンダー平等が決定的であることを指摘してきました。「ワンオペ育児」の言葉に代表されるよう、日本は、家事・育児が圧倒的に女性に偏っている異常な国です。「たたき台」に男性育休の取得促進のための目標や給付率の引き上げ、2歳未満の期間の時短勤務の給付の創設が記されたことは一歩前進です。日本共産党は育休の給付について3ヶ月100%保障を求めてきました。一方で、家事・育児の負担軽減には、ワンオペ育児の大きな原因である、異常な長時間労働の蔓延を規制していくこと不可欠ですが、この点、「たたき台」は全く不十分です。また、男性育休の取得目標の指標が「1週間以上」や「2週間以上」という短期間となっているのも短すぎます。

 

 

 

2、不十分な困難を抱えるこども・家族への支援

 

 

 

 子育て支援の中でも、最優先で取り組む必要があるのは、困難を抱えた子どもや家族への支援です。子ども予算を倍増するというのであれば、ひとり親世帯や障害を持つこどもと家族の支援など、今、生きることに困難を抱えている方への支援を抜本的に強めるべきです。ところが、「たたき台」では、当事者と支援団体のみなさんが求めてきた施策は大変薄いメニューで、困難を抱えている国民に寄り添う姿勢があまり感じられません。

 

 ひとり親家庭の貧困率は50%を超え、母子家庭の平均世帯収入は272万円です。物価高騰の中、「食事の回数を減らしている」など深刻な事態が広がり、政府も、コロナ禍以降、給付金支給を繰り返しています。日本共産党国会議員団は、一貫して、ひとり親世帯の児童扶養手当の所得制限の緩和、二人目(約1万円)、3人目(約6千円)の引き上げを求めてきました。支援団体からも強い要望がありますが、今回の「たたき台」には入っていません。高校入学時は教科書・教材費や制服・ジャージ費用など多額にかかりますが、高校の給付型奨学金の対象は住民税非課税世帯のみで、小中学校の就学援助より狭くなっています。この拡大も予算委員会で求めましたが、「たたき台」には入っていません。

 

 障害児福祉に関わる所得制限の撤廃を求める運動が広がっています。特別児童扶養手当など現金給付の所得制限だけでなく、放課後デイサービス利用なども一定の所得を超えると利用料の上限が8倍の3万7200円になります。補装具支給費にも所得制限があります。重い負担で「きょうだいじ」が大学の進学を諦める、必要なだけサービスが使えないという深刻な事態です。何度も撤廃を国会で取り上げてきましたが、「たたき台」には入っていません。

 

 

 また、国民健康保険料は、加入する子育て世帯にとって極めて重い負担になっています。例えば、4人家族(夫婦、中学生、小学生)で、世帯の給与収入450万の場合、年間の保険料は、新宿区で56万7804円、大阪市で60万3700円と、収入の1割を大きく超え、生活苦をもたらしています(2022年分、厚労省調べ)。同条件で協会けんぽ保険料(被傭者負担)は26万1060円ですから、倍以上です。原因は世帯人数に応じた均等割の存在です。日本共産党が追及する中、昨年から未就学児に限って、均等割が半額になっていますが、全国知事会も減額の対象拡大を強く求めています。「たたき台」は一切触れていませんが、子どもの均等割は廃止すべきです。

 

 

 

3、「受益者負担主義」の新たな逆流、こども医療費有料化の動き

 

 

 先ほど述べたように、「たたき台」には、「高等教育費」の負担軽減として、「授業料後払い制度」を、まずは修士段階の学生から導入することが明記されています。「まずは」とあるように、今後、大学生・専門学校生にも拡大していくことが念頭にあるとみて間違いありません。

 

 「授業料後払い制度」は、「所得に応じた納付が始まる年収基準は300万円程度」、子育て期は、「例えば子供が二人いれば400万円程度までは納付がはじまらないこととする」されています。2012年に所得に応じて返済額が変わる、所得連動返済型奨学金制度が設けられましたが、「授業料後払い制度」は所得連動返済型奨学金制度に手を加えたものと言えます。

 

 「授業料後払い制度」は、確かに入学時には授業料が必要とされませんが、授業料が減免されるわけでありません。現在の奨学金制度のもとで、卒業後、返済に苦労している方はたくさんいます。私立大学の大学院まで1000万円の奨学金を借り、生活に重くのしかかり、窮している相談も寄せられます。私立大学の授業料は年々上がり続けています。「授業料後払い制度」では、現在と同様に、将来に渡り、長期間、返済で苦労する人を生み出し続けることになります。

 

 大きく懸念されるのは、「授業料後払い制度」ができると、現在ある授業料減免制度がなくなるのではないかという問題です。「授業料後払い制度」の導入で入学時・在学時に授業料を払う必要性がなくなれば、大学・専門学校への進学の機会均等のための授業料減免の根拠が揺らぎます。「授業料後払い制度」が導入されれば、公平性の観点から授業料減免制度がなくそうという力が働くことは容易に想像されます。

 

 私は、大学の卒業論文を「高等教育の無償化」をテーマに書きましたが、この「授業料後払い制度」の考え方というのは、「受益者負担主義」の考えによるものと言えます。教育費の負担における「受益者負担主義」というのは、「教育サービス」の受益者は、教育を受ける本人なので、教育費用は本人(もしくはその家族)が負担すべきという考えです。この「受益者負担主義」の考えのもと、1970年代以降、大学の授業料はうなぎ上りに上昇し、1970年に1万2000円だった国立大学の授業料は2005年には53万5800円へ40倍以上になり、私立大学も10倍に上りました。

 

 この「受益者負担主義」は、日本国憲法や子どもの権利条約と全くことなる考えです。教育を受けることは国民の権利、子どもの権利であり、憲法26条や子どもの権利条約28条に明記されています。この権利は国民の生涯にわたっての権利です。

 

 国際人権A規約には、高校・大学までの漸進的無償化を定めた条項(13条2項b、c)がありますが、日本は1979年に国際人権規約を批准したものの、この条項については留保をしました。日本共産党は、1970年代から、国際人権A規約の高等教育無償化条項の留保撤回を政府に求め続け、ようやく民主党政権となった、2012年、宮本岳志議員の国会質疑での求めに応じ、日本政府は留保を撤回しました。そして2017年度から大学の給付型奨学金制度がはじまりましたが、あまりにも対象が狭いと日本共産党は追及、安倍首相は拡充を表明し、2020年から年収380万円までという所得制限で授業料減免と給付型奨学金支給を行う修学支援新制度がスタートしました。

 

 今回の「たたき台」は一方では、「教育を受ける権利」の保障として、大学の授業料減免及び給付型奨学金を若干拡大し、他方で、「受益者負担主義」の考えで、新たに、修士段階から授業料後払い制度を導入するという、2つの異なる方向性が混在しています。

 

 「たたき台」に盛り込まれた「受益者負担主義」の拡大という新たな逆流を許さず、教育を受けることは権利だという立場にたって、教育の無償化を進めることが求められます。

 

 国の制度としての子どもの医療費無料化は「たたき台」にありません。「学校検診で虫歯を指摘されても、治療費がない」などの深刻な実態の中、医療費無料化を求める国民運動と国会・地方議会での論戦で、地方自治体での医療費無料化・負担軽減が大きく広がってきました。現在、全国3分の2の自治体が子ども医療費の無料化を行い、残り3分の1の自治体が医療費助成で、定額負担の制度を作っています。この定額には、多摩地域のように1回200円のところもあれば、大阪市のように1回五百円のところもあります。

 

 たたき台では、「概ね全ての地方自治体に置いて実施されているこども医療費助成について、国民健康保険の減額調整措置の廃止」が記されました。私の国会質問に対して、厚労省は「高校まで」と表明しました。これは私たちも自治体も求めてきたことです。問題はこの後ろの部分で、「あわせて、適正な抗菌薬使用などを含め、こどもにとってより良い医療の在り方について、今後、国と地方の協議の場などにおいて検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる」との文言が入っていることです。この文章の言わんとすることろは、前回のブログ記事に書きましたが、「医療費無料化では不適切な抗生物質の使用が増えることが懸念される」との大臣答弁を踏まえれば、無料化をおこなっている自治体に対して、自己負担を設けるよう求めていく趣旨であることは明白です。子ども医療費無料化については、国会でも、岸田政権は「必ずしもこどものためにならない」と、後ろ向きの姿答弁を繰り返しています。この点について、数度にわたり追及した経過は、前回ブログをご覧ください。

 

 

 

 

4、社会保険料の引き上げは許されない

 

 岸田政権の少子化対策の最大の問題は、その財源です。「たたき台」のメニューは最大8兆円ともいわれています。この間、総理は、「社会保険との関係、国と地方の役割、高等教育支援の在り方などさまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えるのか考える」と、財源確保策の一番に社会保険をあげています。社会保険はリスクに備えるものですから、子育て支援の財源とするのは筋違いです。また、社会保険料には逆進性があります。負担上限額が求められているため、富裕層の負担率は低い。税金は生計費非課税原則により一定所得以下は所得税や住民税はかかりませんが、社会保険料の場合は、住民税非課税世帯にまで負担があります。国民健康保険料の均等割や国民年金保険料のような、定額の負担を一律に求めれば、低所得者ほど負担が重くのしかかることになります。この間、社会保険料負担が増え続け生活を圧迫しており、少子化対策と称して、庶民の社会保険料を引き上げるのは大問題と言わなければなりません。

 

 4月1日から、岸田政権の少子化対策の第一弾として、出産一時金について42万円から50万への引き上げが行われています。引き上げは当然ですが、都市部の出産費用からすると50万円でも足りません。問題は、出産一時金引き上げとセットで、出産一時金の財源の一部を新たに75歳以上の後期高齢者医療の保険料に求める健康保険法改悪案が今国会に提出されていることです(すでに衆議院は自民、公明、国民の賛成で通過しています)。年収153万円、月収12万7500円以上の方の保険料が引き上げられます。これは負担を求めるところが違うのではないでしょうか。子育て世帯にも、高齢者にも暮らしの安心をつくることが政治の責任のはずです。弱いもの同士で負担を押しつけあうような仕組みにしてはなりません。

 

 まずは不要不急の歳出の見直しです。人口減少がすすむ中でも、依然として、採算の取れない高速道路づくりや戦後直後に計画された都市計画道路などに多額の税金が注ぎ込まれていますが見直すべきです。条約上の根拠のない米軍への思いやり予算。政党助成金という巨額の税金にあぐらをかきながら、社会保険料引き上げは納得できない方も多いのではないでしょうか。何よりも、岸田政権がすすめる大軍拡をやめれば財源は出てきます。さらに、岸田首相は、自民党の総裁選で「所得1億円の壁を撤廃する」と述べましたが、公約を放置しています。安倍政権のもとで法人税率の引き下げ、租税特別措置の拡充が行われ、大企業の税負担率は中堅企業の半分ぐらいになっています。大企業・富裕層優遇をただせば、大きな財源を確保すすることができます。大企業・富裕層優遇を温存しながら、「子ども国債」の発行で次世代につけ回しするのも無責任です。

 

5、希望の持てる日本と世界にすることも

 

  

 若い世代を対象にした各種世論調査を見ると、子どもを望まない理由として、将来の日本と世界が心配という声もあります。希望が持てる日本と世界にかえることも必要です。

 気候危機は人類の最大の脅威です。先日、世界各国の科学者でつくる国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が報告書を9年ぶりに公表、CO2等の排出をこのまま継続すると「短期間で世界の平均気温の上昇は1.5度に達することが推定される」と指摘し、大幅な排出削減の必要性を訴えました。世界各国がCO2削減目標を引き上げ、気候危機打開に真剣に取り組むことが求められています。私は3期目、一番はじめの岸田首相への質問の機会に、日本の低すぎるCO2削減目標を引き上げることを求めましたが、ゼロ回答でした。他のサミット諸国は、最もCO2を排出する石炭火力発電を年限を区切ってやめようとしていますが日本はいつやめるとの目標も持たず、新増設すらすすめています。現在しか考えない政治家の姿勢が、未来世代の希望を奪っているのではないでしょうか。気候危機打開に真剣に取り組む政治にかえる必要があります。

 アメリカと財界に顔を向けた政治を大本から変えてこそ、子育て世代も高齢者も、すべての人が安心して暮らせる社会をつくることができます。希望ある社会へ、ご一緒に政治を変えましょう。