旭日旗はなぜサッカースタジアムで禁止なのか? 関係ない日本側の主張、知るべき国際ルール

 

ACL水原対川崎の一戦で、一部のサポーターが旭日旗を掲げ騒動になっている。旭日旗がなぜダメなのか、という反応も多くあるが、今一度なぜ禁止されているのか整理したい。日本側の主張は関係なく、重要なのは、試合を主管するFIFAやAFCの規約である。(文:清義明)

 

 

旭日旗問題。知っておくべきFIFA規約

旭日旗


川崎サポーターが「旭日旗」をACLのアウェイ・水原戦で掲出した(韓国『ヨンハップスポーツ』より)

 

 4月25日のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージ、水原三星(スウォンサムソン、韓国)対川崎フロンターレの一戦で、川崎フロンターレのサポーターが応援の旭日旗を出したことが騒動になっている。

 

 当該サポーターはすぐにこの旭日旗をスタジアムの警備によって没収されたが、この行動に水原のサポーターの怒りは収まらず、試合終了後に川崎側の観客席に乱入。そのために試合終了後しばらくアウェイに観戦に来ていた川崎サポーターはスタジアムを出ることができないという事態となった。

 

 旭日旗での騒動といえば、2013年の韓国での東アジアカップが思い出される。この時は双方の政府がこの「事件」に言及するなどの政治的な国際問題にまで発展した。今回旭日旗を出した川崎のサポーターはこれから学んでいなかったのか、またはネットで一部の右派的な主張を行う人たちから散見される意見のように、旭日旗の何が悪いのだと、さらに挑発的に出したのかはいまのところ不明である。

 

 しかし、ひとついえるのは旭日旗をこのように国際試合で出すことが今後日本サッカー界にとってマイナスに働くばかりか、重大な事態に直結する可能性があるということだ。

 

 これについて、以下、旭日旗がスタジアムで禁止される理由について解説してみたい。

 結論からいえば、各種FIFA管轄のサッカー組織にあるルールから判断すれば旭日旗は明らかにNGである。

 

 まずはFIFAの規約のひとつ「スタジアム安全警備規定」(https://resources.fifa.com/mm/document/tournament/competition/51/53/98/safetyregulations_e.pdf ※PDF注意)の最新版を見てみよう。この第60条二項では「挑発・攻撃的行為の禁止」として以下のように定めている。

 

a)試合主催者は、地元の警察当局と連携しながら、スタジアムやその近辺で、サポーターが挑発や攻撃的行為を行わないようにしなければならない。例えば、選手や審判、相手チームのサポーターが許容できないレベルの挑発や攻撃的なヤジや差別行為、さらには攻撃的、挑発的な内容を含んだ横断幕や旗などもこれに含まれる。もしこのような行為が行われたならば、試合主催者または警備は場内放送でこれに警告しやめさせなければならない。もしこれらが、差別行為などの深刻なケースは警察に通報しスタジアムから排除しなければならない。

b)さらにFIFA加盟の全協会とクラブはこれに関連する規定や規約を遵守し、あらゆる手段をもってこれを未然に防止しなければならない。

 

 

「挑発的行為の禁止」。日本側の主張は関係ない

 ようするに、日本の軍国主義を象徴すると東アジアではみなされる旭日旗は、この「攻撃的、挑発的な内容を含んだ横断幕や旗」に該当し、それにより禁止されるのである。なお、今回の水原対川崎戦はFIFAの下部組織であるAFCの管轄の試合となっているが、その規約(http://www.the-afc.com/uploads/afc/files/afc_safety_a_security_regulations_2017.pdf ※PDF注意)の第38条「挑発的・差別的行為の禁止」にもほぼ同様の規定がある。

 

 旭日旗は「国際的に認められた旗」で「軍事的なシンボルではない」ので問題はないはずだという主張もみられるが、この意見が妥当かどうかは関係なく、それ以前に相手に対する挑発的行為ということになるわけだ。

 

 ここでは深くは踏み入らないことにするが、韓国や中国といった国々では、この旭日旗を軍国主義の象徴とみなしていることはもはや説明の必要もないだろう。筆者は多くの韓国や中国のサッカーサポーターに、サッカースタジアムに旭日旗があることをどう思うかという質問をしてきたが、そのどれもが「ありえない」「その質問自体も失礼である」というような回答だったことだけをここでは書いておこう。このような相手に旭日旗を出すことは「挑発」以外の何物でもないわけである。

 

 このため、Jリーグのクラブチームや日本代表では、中国や韓国といった東アジアの国との国際試合に関しては比較的厳格な措置をとっていて、例えば事前にスタジアム入場時の荷物検査を行ってもいる(これもFIFAの安全規定で定められたものでもある)。

 

 実際に、日本代表戦などでは何人もが荷物検査や試合開始前の段階で、旭日旗を没収されているケースもある。また、ACLのような試合でもクラブが直接サポーターグループなどに指導しているケースもある。いらぬトラブルを防ぐためにも賢明な措置であろう。

 

 例えば、川崎フロンターレも対中国の試合では、過去に旭日旗は禁止されているということを公式サイトで明確に注意を促していた。これは事前の中国の公安(警察)からの指導に従ったものであろうが、こちらも未然防止には効果的だったろう。なお、今回の韓国アウェイの試合ではそのような注意喚起は見当たらなかった(公式サイト上では触れていない)。

 

 

自衛隊が使っているから問題ない? シャルケでは軍事標章は禁止

旭日旗
アジア以外の国との国際試合において「旭日旗」による応援はもはや野放し状態になってしまっている【写真:Getty Images】

 

 そしてさらに、日本サッカー協会はその主管試合(代表戦)においては「政治・思想・宗教・軍事・差別的な主義、主張、観念を表示、若しくは連想させるような」旗や横断幕を禁止している。これによると、戦前に日本海軍の軍艦旗、また陸軍の連隊旗として使われており、また現在では海上自衛隊の旗として使われている旭日旗は明らかに規約違反となる。

 

 これについて違った解釈もありうるだろう。例えば、一部にナチスのハーケンクロイツ(鍵十字)ならともかく、旭日旗は自衛隊も使っているもので問題はないはずだという意見もあるようだ。

 

 これに関しては、例えば内田篤人選手が所属するシャルケ04のスタジアムの禁止意匠規定(http://www.schalke04.de/fileadmin/images/Hauptseite/Fans/Fanbelange_Rechte_Symbole.pdf ※PDF注意)を参照されたい。現在のドイツ軍が使用している軍事標章である鉄十字も禁止されていることがわかるだろう。欧州サッカージャーナリストもドイツのスタジアムで鉄十字がスタジアムに出たら大問題になるだろうと筆者の取材に答えている。これからすると旭日旗と鉄十字は同じスタンスで理解できるかぎり、文字通り旗色が悪い。

 

 ただし「軍事的標章」であるはずの旭日旗に関して、日本サッカー協会は玉虫色の対応をしてはいる。おおざっぱにいえば、中国と韓国の試合のときは事前チェックなどで露出することを防ぎ、ほかの国との試合では放置しているのである。

 

 一方、Jリーグでは先日ガンバ大阪がナチスの意匠の旗を出したことが問題になったが、「政治・宗教的」なものは個別のクラブチームの試合規約で禁止されていることが多いが、ここには「軍事的なものを連想させるもの」という規定はどこも見当たらず、そのために旭日旗はアジアとの国際試合以外では野放しになっており、ほぼ日常の応援風景で見られるようになっている。

 

川崎には韓国人選手も所属。サッカーでは過剰なナショナリズムはプラスにならない

チョン・ソンリョン
川崎には韓国人GKチョン・ソンリョンも在籍しているのだが…【写真:Getty Images】

 

 今回のACLで川崎サポーターが旭日旗を掲出したのは、どうやら川崎のサポーターグループではなく、個人がやってしまったことのようだ。すでにサポーターグループでは旭日旗が国際試合では禁止されているということはおおよそ理解されてきており、クラブからの指導にも従っている。

 

 ところが、このような個人のサポーターについては、現場レベルでの指導ではどうにもならない。おそらく、ゴール裏のサポーターグループの席でこれを出したら、グループから注意が入って取りやめさせることになったのではないかと筆者は想像する。なお、前述した2013年の東アジアカップでの旭日旗もグループに所属しない個人が、グループの位置から離れた場所で掲出したものである。

 

 おそらくこの旭日旗を掲出したサポーターも、そんなに大きな問題になるとは思ってはいなかっただろう。なぜなら、普段Jリーグのゴール裏では見慣れたものだったからだ。事前にサポーターに対して、旭日旗が対戦相手国によっては問題になるということを周知しなかった川崎フロンターレの責任もあるだろうが、そもそもは普段の試合で旭日旗が野放しになっていることに遠因があると筆者は思えて仕方ないのだがどうだろうか。

 

 さて、このような騒動がありながら、川崎フロンターレはアウェイで1-0の勝利をおさめた。

 接戦の末のアディショナルタイムに絶体絶命のピンチを救った勝利の立役者は、韓国出身のGKチョン・ソンリョンである。もはやクラブチームのワールドサッカーでは国籍は超越し、クラブというそれぞれの仲間のために戦うのが当たり前の話である。果たして、そのチョン・ソンリョンに対して旭日旗は応援の意味があっただろうか。彼は旭日旗についてどう思っているだろうか。答えはチョン選手に聞くまでもなかろう。

 

 これは韓国人選手にだけいえることではない。過剰なナショナリズムをぶつけてそれでよしとする時代錯誤な風習は、少なくともサッカーの世界にとって、マイナスにはなれど決してプラスにはならない。筆者は、このまま旭日旗の取り扱いを日本サッカー界が玉虫色で扱った末には、必ず大きなトラブルになる日がくると思えてならない。

 

 

欧州では厳しい制裁が下ったことも。日本で同レベルの問題が起これば…

セルビア
2014年のセルビア対アルバニアでは「大アルバニア主義」の旗がドローンで掲げられ大きな問題になった【写真:Getty Images】

 

 2014年のセルビア対アルバニアの代表戦では、政治的なトラブルになること必至の大アルバニア主義の旗がラジコンヘリによってピッチに運ばれた。

 

 これによりスタジアムは騒乱状態になり試合途中で没収試合となった。最終的にはスポーツ仲裁裁判所が「アルバニアの3-0勝利」を決定、セルビアは勝ち点3の没収と2試合の無観客試合の制裁を科せられた。なお、両国とも10万ユーロの罰金が科された。

 

 このような騒動が、旭日旗が原因で日本代表やクラブチームの試合で起こるならば、その責任は野放しにしていた主催者とサポーターのものとされても致し方ないかもしれない。筆者の生まれたのは海上自衛隊の基地の町で、毎日護衛艦にたなびく旭日旗を子供のころは見てきた。それからも意匠としての旭日旗には親しんできた。

 

 しかし、グローバルな社会となり海外の人たちもやってきて隣人にたくさんのアジアの人たちがいる中で自分たちの感覚や理屈だけが正しいというわけにはいかないのである。多くのサッカーサポーターは日々ワールドサッカーに触れてきている。その考えを共鳴していただけると信じたい。

 

(なおこの旭日旗の問題や先日に起こったガンバ大阪サポのナチス旗の問題などについては、アジア各地や欧州の実情などふくめて、すでに拙著『サッカーと愛国』で詳細に書かせていただきました。ぜひともご参照ください。全国の図書館でも読むことができます)

(文:清義明)