東家一太郎雷門会 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


「東家一太郎・雷門会」
~season 4~
◎2017年2月17日(金)・19:00開演。
◆於、(一社)日本浪曲協会広間。
『小田原情相撲』
東家一太郎、曲師…馬越ノリ子
『阿漕ヶ浦』
東家一太郎、曲師…東家美
※終演後「茶話会」あり

偶数月の第三金曜に浅草の浪曲協会で開かれている東家一太郎さんの「雷門会」、今年最初となる今回は『小田原情相撲』とネタおろしとなる『阿漕ヶ浦』の二席を読まれました。

昼間は暖かな陽気で上着を着ていると暑いくらいでしたが夕方になると冷え込み、曇りガラス越しに見える風にたなびく浪曲協会の紅い幟がより一層寒さを感じさせます。
会場の中は暖房が効いていますが、詰めかけたファンの熱気でぽかぽかしました。




一席目は平成の今日までその名誉れ高き名力士、雷電爲右エ門が薄幸な母子のために一肌脱ぐ『小田原情相撲』を馬越ノリ子さんの三味線で。
冒頭の素人相撲の相模灘岩五郎に土俵を荒らされ、どう対処をすべきか話し合いを持っている場面で、横綱谷風にどっしりとした重みが前回よりも出ていて良かったです。大相撲の面々が直接的には描かれていませんが、一人一人の顔が見えるようでした。また腕を一段と磨かれていると感じます。
相模灘に反則技で命を奪われたおさわ親子が谷風に敵討ちを願うために宿屋を訪れる所で、宿屋の主が取り次ぐ時に身なりの汚いと言うのを谷風が注意する所に感銘を受けます。ほんの一言ながら、人を外見で判断してはいけない、言わば心が大切との言葉が胸に響きます。決して押し付けがましさや説教臭さがなく自然の中に道徳を教えてくれるのが浪曲の良さです。一太郎さんは言葉を大切にされておられるので、作者の思いが正確に聴き手に伝わります。
馬越ノリ子さんの三味線も雷電の誠実さが現れたような伴奏で良かったです。
弱い者を助け慢心な卑怯者を倒す所に溜飲が下がりました。一太郎さんの持ちネタの中でもこれは特に素晴らしいです。




二席目はネタおろしとなる『阿漕ヶ浦』を相三味線の東家美さんの三味線で読まれました。
『阿漕ヶ浦』は一太郎さんの師匠、東家浦太郎師匠の十八番であり、ここ一番の時に掛けられる大ネタに初めて挑戦をされ、初めての緊張感もあり、こちらも真剣勝負の気持ちで拝聴しました。
外題付から聴く者の心を掴む節を出され圧倒されました。目の前に伊勢の海がパーっと広がるようでした。
阿漕ヶ浦での漁師達と後に徳川吉宗となる徳太郎とのやり取り。徳太郎が網に掛かった魚の名前を何も知らず、いちいち漁師に尋ねてはとんちんかんなことを言いますが、徳太郎はバカではなく高貴であるからこそ庶民の物がわからないので、そこのギャップを出されているのが良いです。
一番感動をしましたのは、放蕩三昧の徳太郎に大岡忠相がお白須で意見を言う所です。若君に意見を言えば自分が処罰を受けるかも知れませんが、この未来ある若者を思い、命を掛けて意見をする忠相の熱い心に胸を打たれます。忠相の心に触れた徳太郎が改心し、二人が強い絆で結ばれる所は大きな感動に包まれます。
美さんの三味線が忠相と徳太郎の心を現していて、よりドラマを盛り上げます。
浦太郎師匠の芸を受け継ぎつつ、一太郎さんの魅力も出しておられ素晴らしいです。
『阿漕ヶ浦』も将来一太郎さんの十八番になると感じました。自己流にならずしっかりと師匠の芸を追い求めておられる姿勢に感動をしました。
芸の継承に立ち合えたことを感慨深く思います。

雷門会は、納得出来ないけど仕方がないかなと思う会が多々ある中、心から良い物を見ることが出来たと思える会です。
次回からはseason5に入るそうで、どんな舞台を見せて下さるか楽しみです。