第5回赤坂で浪曲「東家一太郎と国本はる乃の会」 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。

◎第5回赤坂で浪曲
「東家一太郎と国本はる乃の会」
【忠臣蔵パートⅡ】
◎2017年1月15日(日)・14:30開演。
●於、赤坂カルチャースペース嶋

『大石山鹿護送』
国本はる乃、曲師…東家美
『弥作の鎌腹』
東家一太郎、曲師…東家美
ー仲入りー
「トークコーナー」
東家一太郎、国本はる乃、東家美
『大高源吾 腹切魚の別れ』
東家一太郎、曲師…東家美


今日、浪曲を聴きに行くと言えば浅草の木馬亭、浪曲協会、上野の広小路亭、新宿の道楽亭を真っ先に思い浮かべます。「赤坂で浪曲」と聞いた時に、赤坂で浪曲!と新鮮な感じがしました。

地下鉄の赤坂を上がり、大TBSにくるりと背を向けて、溜池方面へと向かいます。赤坂は何回か来たことがありますが、南側に来るのは初めてです。
途中、お城のようなホテルに高度経済成長の夢の跡を見るような懐かしさを感じているうちに会場へと到着。
入口の幟が誇らしげに風になびいているのが印象的でした。


この日の番組は国本はる乃さんと東家一太郎さんの若手実力派二人が、忠臣蔵物を三席読むという好企画で、客席は浪曲ファンで大いに賑わいを見せました。


トップバッターは国本はる乃さん。山鹿素行を赤穂まで護送する役目を担った若き日の大石内蔵助の姿を描く『大石山鹿護送』を読まれました。
内蔵助と一緒に山鹿素行を護送する赤穂藩一番の臆病者の近藤源四郎の対比がおもしろく、近藤のキャラクターが観客の心をぐっと捉えます。
道中付に風景がオーバーラップのように現れ、鮮烈な印象を受けました。
山鹿素行に大きさが出始め、まだネタおろしをしてからそれほど経っていないのにグンと延びていると感じます。
節に高音部で荒っぽい所が少し見受けられますが、山鹿の門弟が去った後が箱根山の澄んだ空気が舞台いっぱいに広がるような清々しさを出せたのがお手柄です。
将来の大看板は間違いないと期待を致します。


二席目は若き実力派の東家一太郎さんで師匠譲りの『弥作の鎌腹』を読まれました。
このネタを拝聴する度に弥作の悲喜劇に感動を受けますが、今回は特に弥作と弟与五郎のやり取りが絶妙で感服を致しました。弟を思えばこそ本気で怒り、弟を守るために命をも惜しまない兄の心を一太郎さんはしっかり出しておられるので、大きな感動を起こすのだと思います。
前半の喜劇的なおかしみと後半の悲劇の描き分けも上手く、前半の弥作の明るさがより悲劇を深めます。
師匠でおられる東家浦太郎師匠の匂いをもちろん感じますが、啖呵の回し方が中村吉右衛門さんに似ていると感じました。僕が播磨屋を好きなのでこじつけかも知れませんが、芸風が似ているように思います。
もう一つ、良いなと思うところは、弥作と与五郎の話を聞いた代官が「やあやあ聞いた聞いた~」と告げる所。歌舞伎を思わせるたっぷりとした調子が素晴らしいです。
拝聴する度に磨きが掛けられており、また次回が楽しみです。


仲入りの後に一太郎さんとはる乃さん、三味線の東家美さんのトークコーナーがあり、浪曲の舞台とはひと味違う素の魅力を出され、皆さんのお人柄にも魅了されました。


トークの後は一太郎さんがもう一席読まれました。演題は『大高源吾 腹切魚の別れ』。
仇討ちのために江戸へ向かう大高源吾と中村勘助。途中、源吾が兄弟の契りを結ぶ水沼久太夫の元に立ち寄るが、久太夫に仇討ちに加わることを見抜かれてしまったため、心ならずも不忠者を装い、久太夫を欺くお話。
久太夫に源吾が武士の心を失ったと思わせるため、昔久太夫に用立てたお金を返すように迫る場面が秀逸です。一歩間違えれば、陰湿な感じになり聴いていて嫌な印象を受けますが、一太郎さんにはそれがなく仄かなおかしさの中に源吾の寂しさ、本心を明かせない申し訳なさがあり、静かな感動を覚えました。
見事本懐を遂げた後に誤解がとけ、兄弟の仲も元通りとなり本当に良かったと晴れやかな気持ちで聴き終えることが出来ます。
前の席の『弥作の鎌腹』とこのネタの二席も傑作を出され、一太郎さんの奮闘に力一杯の拍手で賛辞を送らせて頂きました。


影の主役を忘れてはなりません。はる乃さんと一太郎さんを三席弾かれた東家美さん。
演者の熱演を支えらると同時に観客の想像力にも手を差し伸べてくれ、より一層楽しむことが出来ました。
一太郎さんとの二人三脚で次世代の浪曲界を牽引して頂きたいです。

夕方になると風が冷たく芯から冷えそうになりましたが、良い舞台を見て熱くなった体に調度良いです。冷えすぎましたら、また良い浪曲を聴きに足を運ぶと致します。