「浪曲定席木馬亭」新春特別公演 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。


「浪曲定席木馬亭」
~新春特別公演~
◎2017年1月2日(月)・11:00開演。

『山の名刀』
富士実子、曲師…佐藤貴美江
『楽満寺』
国本はる乃、曲師…伊丹明
『安兵衛道場破り』
東家一太郎、曲師…東家美
寛永三馬術『愛宕山梅花の誉れ』
玉川奈々福、曲師…沢村美舟
『王将夫婦駒』
鳳舞衣子、曲師…佐藤貴美江
『愛馬の勝鬨』
浜乃一舟、曲師…東家美
「漫談」
イエス玉川
ー仲入りー
『あの頃の夢』
神田茜
『三婆物語』
国本晴美、曲師…伊丹秀敏
『阿漕ヶ浦』
東家浦太郎、曲師…伊丹明




昨年の四月から病気療養のため、お休みをされていた浪曲界の最高峰、東家浦太郎師匠が見事に回復をされ舞台へ帰って来られました。
朝のうちは曇りであった空も開演する頃には晴れ渡り、浦太郎師匠のご復帰を祝福しているようでした。

木馬亭浪曲定席のチラシに浦太郎師匠の名前が載るのを首を長くして待っておりましたので、ついにこの日が来たといる万感の思いです。
私と同じく浦太郎師匠のご復帰を待ち望んだ浪曲ファンで客席は埋め尽くされ、いつもの正月興行に増して熱気を感じました。

開口一番の富士実子さんから順調に香盤が進み、いよいよトリになった時には観客の期待と興奮が頂点に達しており、幕を勝手に開けてしまいそうな勢いがありました。

そして、浦太郎師匠が舞台に登場されると割れんばかりの万雷の拍手と「待ってました!」の掛け声でご復帰を祝福しました。
私も感無量になり、思わず目頭が熱くなりました。
浦太郎師匠はファンへ復帰の挨拶を述べられると『阿漕ヶ浦』へ入って行かれましたが、お休み前と変わらぬ美声と艶のある節で一気に観客の心を掴まれました。
何と言う力強さ、長期に渡りお休みをなされていたのが嘘のようであり、ファンへもう大丈夫と高らかに宣言をなされたような名調子に胸がいっぱいになりました。
後の将軍吉宗となる紀州の徳太郎が暴れまわり民を苦しめるのを大岡忠相が諌め、改心をさせるこの話は、笑いあり涙ありで、これぞ浪曲という一席です。
徳太郎が殺生禁断の阿漕ヶ浦で漁に興じる所では、魚の名前を知らず漁師に訪ねるやり取りがユーモラスで、徳太郎の世間知らずさが高尚な笑いを生んでいます。
山場である忠相が徳太郎を捕らえ奉行所のお白洲で意見をする所は、厳しい中にも温かさと思いやりがあり、浦太郎師匠のお人柄がにじみ出ていて大きな感動を受けます。60年に渡り築いた芸であり、これぞ本物の浪曲です。
これからも益々お元気に私達浪曲ファンに名人芸をお聴かせ頂きたいと、ご健康とご長寿を心より御祈りさせて頂きます。



この日の番組は素晴らしい番組で、最初から最後まで聴き入りました。

ベテラン国本晴美師匠の『三婆物語』は、公園で顔をあ合わせた三人のおばあちゃんが互いに嫁や息子の愚痴を言い合うお話で、おかしさの中に人生の悲哀があり、いろいろと考えさせられる味わい深い舞台でした。
伊丹秀敏師匠の三味線が最高です。

名匠浜乃一舟師匠は愛弟子東家美さんの三味線で『愛馬の勝鬨』を熱演されました。
父に先立たれた少年騎手が逆境を乗り越え、父の遺志を受け継ぎ姉の応援に支えられ見事レースで優勝をする感動作。
一舟師匠が名調子で紡ぐ家族愛に泣かされました。

笑いの伝道師イエス玉川師匠が久々の登場。
新年から猛毒のある笑いと浪曲を交えた喋りで、客席を笑いの渦に包みました。
笑える者は救われるという感じです。

月刊「東京人」2月号の浪曲大特集の表紙を飾り、高田文夫先生とも対談をされたトップランナー玉川奈々福さんは、新進気鋭の沢村美舟さんの三味線で『愛宕山梅花の誉れ』を熱演。
笑いと真に迫る名演で一足早い春の温かさを客席に送りました。

東家浦太郎師匠門下で若手実力派の東家一太郎さんは名コンビの東家美さんの三味線で『安兵衛道場破り』をじっくりと読まれ、坪を押さえた名演で満場の客席を魅了しました。
中山安兵衛が越後から上京し逗留する越後屋の主人とのやり取りが絶妙で自然なおかしみを出していました。
道場破りをする場面が大変素晴らしく、豪快さと繊細さを兼ね備え、往年の名優大友柳太朗を彷彿とさせる名優でした。
今年も一太郎さんと美さんの二人三脚が楽しみです。

次世代を担う期待の星、国本はる乃さんは『楽満寺』で気を吐かれ、この一年でまた大きく延びられると期待を抱く好演でした。
艶笑的な笑いもはる乃さんに掛かると健康的でほのぼのとした笑いになり、とても良い愛すべきキャラクターが最高です。

昨年看板披露をされた鳳舞衣子師匠は『王将夫婦駒』で坂田三吉夫婦の絆をたっぷりと読まれました。
佐藤貴美江師匠の三味線が撥捌きが良かったです。

開口一番の富士実子さんは『山の名刀』を読まれましたが、盗賊の奥さんの演じ方が良かったです。菩薩のような優しさを感じました。

講談は神田茜先生。『あの頃の夢』を読まれ、定席に華を添えられました。 



東家浦太郎師匠のご復帰は浪曲界に明るい光を照らしました。折しも浪曲が注目を集めはじめておりますので、この勢いで浪曲の再興を目指して頂きたいです。