東家一太郎「雷門会」シーズン4 | みつ梅の古今東西かべ新聞

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浪曲、歌舞伎を中心に観劇の感想を書かせて頂いております。
拙い文で恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。

東家一太郎「雷門会」
~シーズン4~
◎2016年12月16日(金)・19:00開演。
◆於、日本浪曲協会広間。

『水戸意外伝 光圀青春暴走曲』
東家一太郎、曲師…馬越ノリ子
『大高源吾 腹切魚の別れ』
東家一太郎、曲師…東家美
「茶話会」


暮れのある日の夕刻、東家一太郎さんの「雷門会」の行われる田原町の浪曲協会を訪れました。
まだ時間が早いと見えて、他にはお客さんの姿が見えず、だだっ広い会場で一人ポツンとしていると、閉められた雨戸が時折吹く風に揺らされ、カタンカタンと音を立てます。
ついこの間まで暖かさがあり、秋でしたのに一気に寒さが訪れ、冬という気分でありませんでしたが、こういう何気ないことにああもう冬なんだなと実感が沸きます。

ぼんやりと過ごしているうちに時刻も進み、客席も一太郎ファンと浪曲ファンで埋まり、開演の時刻となりました。

毎回一太郎さんの趣向を凝らしたプログラムで観客を楽しましてくれる雷門会、今回も一年の締め括りに相応しい充実した番組でした。


一席目は馬越ノリ子さんの三味線で、放送作家の二村邦夫先生による天下の副将軍徳川光圀の青春グラフティ『水戸意外伝 光圀青春暴走曲』を読まれました。この作品は一太郎さんが東家浦太郎師匠に入門され一番最初に覚えられたネタだそうで、思い入れの深さが伝わって来ました。
水戸黄門として知られる光圀の正義感に燃える青年の心、ほのかな恋を軸にやんちゃな若者から大人へと成長して行く姿が綴られ、この作品が書かれた頃に流行したトレンディドラマのライトな感覚も取り入れられており、浪曲を初めて聴く方でも楽しめる作品です。
この作品には時事ネタが啖呵に用いられておりますが、一太郎さんは若い観客も楽しめるように最近の出来事に変えて工夫をされていてさすがと思います。ギャグとパロディは鮮度が命ですので、時事ネタは難しいですがピタッとはめられお手柄です。
これからも掛けて頂きたい一太郎さんの傑作の一つです。


二席目は相三味線の東家美さんの糸で、大師匠野口甫堂先生(東家楽浦師匠のペンネーム)の『大高源吾 腹切魚の別れ』を読まれました。
中村勘助と共に東海道を下る大高源吾が、義兄弟の契りを交わした水沼久太夫を訪れる所から起こる顛末を描いた物語で、仇討ちの秘密を漏らすまいと心ならずも兄と慕う久太夫と仲違いをする源吾の思いが一太郎さんの節と美さんの三味線に現され、聴く者の涙を誘いました。
久太夫が訪れた源吾達の目的を察し、膳の魚で謎を掛ける所の緊迫感と源吾達に仇討ちの意思がないと久太夫に思わせるため、久太夫が浪人の時分に用立てた真心のお金の返済を迫る所の非情さが胸にぐっと来ました。同志の秘密を守るために、ダメな人間と誤解をされたまま去る源吾の背中に寂しいものを感じました。後ろ姿など見えない物を想像で見せる一太郎さんの表現力の高さに脱帽です。
見事、吉良を討って本懐を遂げた源吾が、久太夫へ騙した詫び状とお金を送り、久太夫が泣いて喜ぶ所はこちらも誤解がとけて良かったと嬉し泣きをしました。
とても良いネタであり、作者の思いを正確に伝える一太郎さんに芸に野口甫堂先生はお喜びになられている気がしました。


一年の締め括りであると同時に、明年、十周年の佳節を迎えられる一太郎さんの新しい年へのスタートを切った素晴らしい会となりました。
雷門会も明年は5年目となり、次はどんな舞台を見せて下さるかと楽しみにしております。