高校に入学すると迷わずカレー部に入った。幼い頃からの憧れだったカレー部。真夏のカレー甲子園、全裸にエプロンで汗だくになって腕を奮う選手たちに、TVの前で心踊らせた。
ボクの夢は高校3冠制覇。夏のカレー甲子園に先んじて春に行われる西城秀樹カップ、そして言わずと知れた正月の風物詩・全国高校カレクック杯。高校生なら誰でも一度は頭にカレーを乗せたいと思ったことがあるはずだ。「おせちもいいけどカレーもね」の横断幕は今でもボクの心に大きく掲げられている。
しかしボクが入学したのは名もない公立高校。いつも県大会ベスト8止まり。3冠制覇どころか全国のキッチン舞台にも立てずにいた。というのも近年、私立強豪高の選手集めが激化してきているのだ。特待生扱いに恵まれた練習環境を思えば当然かも知れないが、ボクは公立のカレー部で強くなりたかった。
ちょっと脱線しちゃうけど、練習に明け暮れる毎日ながらも恋だってした。女カレの副キャプテン・明美ちゃんだ。笑うと目尻にカレージワができるチャーミングなカレー娘だった。福神漬けに対する考え方の違いから時々ケンカもしたけど、とっても素敵な恋だった。でもいきなり体育館の裏に呼び出されてラブカレーを渡されたときは驚いたなぁ…。今となっては甘くてスパイシーな思い出だ。
いけないいけない、つい脱線が長くなっちゃったけど、もちろん練習は一生懸命やった。ガラムマサラの振り方に定評があったボクがレギュラーに定着したのは2年生の春のこと。純白のエプロンに初めて袖を通した時の感動は、今でも忘れない。思いのほか局部の辺りがスースーする。見るとその部分だけメッシュ素材になっていて、なるほどこれならカレーに集中できるわけだと納得したものだ。
当時県内にその名を轟かせていたのは、私立服部学園だ。服部校長がズンドウ鍋で茹でられてる様をモチーフにした校章はあまりにも有名。4期連続で県大会を制しており、昨年の秀樹カップでは準決勝まで勝ち進んでいる。日本中からスカウトで集めた腕自慢の選手に加え、本場インドからの留学生も多くいた。なかでも群を抜く存在だったのが、10年に1人の逸材と言われ、秋のドラフト大注目の土橋だ。全国的に見ればライバルはまだまだいる。北の怪物・笹川率いる青森恐山工業、伝統のシュアな味付けに磨きがかかる栃木師岡学院、練習後にはカレー風呂で汗を流すでお馴染みの、古豪・広島華麗日本短大附属高校…。今では連日カレー新聞の一面を賑わすプロ選手を多数排出している。
でも、我がチームだって捨てたものではない。小粒ながらもピリリと辛いコクのあるいいチームだ。
高3の夏、最後の県予選。順調に勝ち進んだボクらは、準々決勝で第1シードの服部学園とぶつかった。最大の山場。これを越えれば全国のキッチンが見えてくる。
序盤はエース土橋のパワーに圧倒された。ヤツのみじん切りはハンパじゃなかった。後にも先にもあんなにこっぱ微塵にされたタマネギは見たことがない。さすがは土橋。しかしボクらも負けてはいない。春から取り入れた養成ギプスの効果が徐々にチーム全体に現れ始めた。ジャガイモ担当奈良原の好プレー、チームのために自ら犠牲となることをいとわない堅実なタマネギ炒めの佐々木、そしてうちの切り札・山下の鍋振りだっ!終盤、いよいよ勝負を決するその時、ボクはついに、肘を痛めて封印していたイナズマ落としガラムマサラを繰り出した!激痛に耐えながらも振りかざしたガラムマサラの小ビンは、ボクらに奇跡の勝利をもたらした。
後にボクは日本代表として…
…ここまで書いて、あまりにもバカバカしいのでやめた。もっと早く気付くべきだったと反省している。
ボクの夢は高校3冠制覇。夏のカレー甲子園に先んじて春に行われる西城秀樹カップ、そして言わずと知れた正月の風物詩・全国高校カレクック杯。高校生なら誰でも一度は頭にカレーを乗せたいと思ったことがあるはずだ。「おせちもいいけどカレーもね」の横断幕は今でもボクの心に大きく掲げられている。
しかしボクが入学したのは名もない公立高校。いつも県大会ベスト8止まり。3冠制覇どころか全国のキッチン舞台にも立てずにいた。というのも近年、私立強豪高の選手集めが激化してきているのだ。特待生扱いに恵まれた練習環境を思えば当然かも知れないが、ボクは公立のカレー部で強くなりたかった。
ちょっと脱線しちゃうけど、練習に明け暮れる毎日ながらも恋だってした。女カレの副キャプテン・明美ちゃんだ。笑うと目尻にカレージワができるチャーミングなカレー娘だった。福神漬けに対する考え方の違いから時々ケンカもしたけど、とっても素敵な恋だった。でもいきなり体育館の裏に呼び出されてラブカレーを渡されたときは驚いたなぁ…。今となっては甘くてスパイシーな思い出だ。
いけないいけない、つい脱線が長くなっちゃったけど、もちろん練習は一生懸命やった。ガラムマサラの振り方に定評があったボクがレギュラーに定着したのは2年生の春のこと。純白のエプロンに初めて袖を通した時の感動は、今でも忘れない。思いのほか局部の辺りがスースーする。見るとその部分だけメッシュ素材になっていて、なるほどこれならカレーに集中できるわけだと納得したものだ。
当時県内にその名を轟かせていたのは、私立服部学園だ。服部校長がズンドウ鍋で茹でられてる様をモチーフにした校章はあまりにも有名。4期連続で県大会を制しており、昨年の秀樹カップでは準決勝まで勝ち進んでいる。日本中からスカウトで集めた腕自慢の選手に加え、本場インドからの留学生も多くいた。なかでも群を抜く存在だったのが、10年に1人の逸材と言われ、秋のドラフト大注目の土橋だ。全国的に見ればライバルはまだまだいる。北の怪物・笹川率いる青森恐山工業、伝統のシュアな味付けに磨きがかかる栃木師岡学院、練習後にはカレー風呂で汗を流すでお馴染みの、古豪・広島華麗日本短大附属高校…。今では連日カレー新聞の一面を賑わすプロ選手を多数排出している。
でも、我がチームだって捨てたものではない。小粒ながらもピリリと辛いコクのあるいいチームだ。
高3の夏、最後の県予選。順調に勝ち進んだボクらは、準々決勝で第1シードの服部学園とぶつかった。最大の山場。これを越えれば全国のキッチンが見えてくる。
序盤はエース土橋のパワーに圧倒された。ヤツのみじん切りはハンパじゃなかった。後にも先にもあんなにこっぱ微塵にされたタマネギは見たことがない。さすがは土橋。しかしボクらも負けてはいない。春から取り入れた養成ギプスの効果が徐々にチーム全体に現れ始めた。ジャガイモ担当奈良原の好プレー、チームのために自ら犠牲となることをいとわない堅実なタマネギ炒めの佐々木、そしてうちの切り札・山下の鍋振りだっ!終盤、いよいよ勝負を決するその時、ボクはついに、肘を痛めて封印していたイナズマ落としガラムマサラを繰り出した!激痛に耐えながらも振りかざしたガラムマサラの小ビンは、ボクらに奇跡の勝利をもたらした。
後にボクは日本代表として…
…ここまで書いて、あまりにもバカバカしいのでやめた。もっと早く気付くべきだったと反省している。