三宅 秀道 著『新しい市場のつくりかた』で考える“教育の目的”(1/3) | mitemoのブログ
教育の目的を考える というテーマで
三宅 秀道 著『新しい市場のつくりかた』を取り上げ、
連載をお届けします。

0.イントロダクション:三宅 秀道 著『新しい市場のつくりかた』
1.「需要を開発する、それが文化開発だ」
2.「文化開発に必要なもの」
3.「文化開発が行われる組織を築くために」

今回は、この本の内容と、この本の主題、「文化開発」について軽く紹介します。


■車を使うための文化開発
みなさんは、ミシュランのガイドブックをご存知でしょうか。

ミシュランという会社はもともと、ゴム製品の製造を行っていました。
1891年には、自転車のタイヤの製造をはじめ、やがて自動車のタイヤにも生産を拡大していきます。
このガイドブックができたのは1900年台初頭、車の黎明期です。その当時、車の使い方というものは定まっていませんでした。今のように車で旅行に行くということも、普遍的ではなかったのですね。
そんな中ミシュランが始めたのが、ミシュランガイドブックでした。それは車で旅行をする、という文化を開発するものだったわけです。
(それまでは馬車が移動手段の中心的役割を担っていたはずです。)

この本ではこれ以外にも様々な事例を取り上げて、文化を開発する重要性を説いています。


■需要がなければ供給できない
前回も申し上げたとおり、事業というのはつい、価格競争や技術競争に陥りがちです。とくに技術競争においては、消費者が求めていないような高度な機能など、需要側にその供給を受け入れる能力がないような製品が作られてしまいます。
重要な事は、供給側(技術)とともに、需要側(文化)も開発していくことだと著者は主張します。
需要側が、新しい文化、生活習慣、ライフスタイルといったものを受け入れたとき、はじめて新しい市場が生まれるのです。これが文化開発です。

ところが、新しい市場の発生というのは、ほとんど観察されることがありません。大抵は無名の企業が社会の片隅で新しいライフスタイルを作る、ということから始まっているからです。
しかし、新しい文化は、誰かが考えている問題点をなおすことで開発されるものではないといいます。
それではどのような視点が必要なのでしょうか。


■誰も考えなかった問題を解決する
文化開発は、それまで誰も考えなかったライフスタイルを提案するということです。著者はウォシュレットの例をあげ、これを説明しています。以下、すこし引用します。

“ウォシュレットが一般家庭に普及し始めてからまだ三十年ほどですから、読者の多くは、それ以前を覚えていらっしゃるでしょう。あの時代にウォシュレットを見て学ぶのではなく、その存在を知る前から自発的に「トイレでお尻を洗いたい」と思っていた方は、どれほどいらっしゃるでしょう? 昔はお尻をトイレで洗わないことが当たり前で、ウォシュレットがあたりまえだとは思わなかったですよね。”

技術的に可能であるか? という命題は、お尻だって(トイレで)洗って欲しいはずだ、という問題が設定されないと意味をなしません。


■市場をつくるプロセス
新しい市場を作り出すためには、問題の開発から初めて、技術開発、環境(製品を使うためのインフラ)開発、(需要側への)認知開発というプロセスを踏む必要があります。とても当たり前に思える話ですが、多くの企業ははたしてこれを実行できているでしょうか。

次回「文化開発と教育」につづきます。