「蒔絵とジャパニング」 | Classic to Modern デコラティブアート的造形と家具作家の日記

「蒔絵とジャパニング」

3月にロンドンのビクトリア&アルバート ミュージアムの

家具展示を見に行った時に鑑賞した家具について書いています。

 

日本が鎖国していた17世紀頃から、ヨーロッパでは

東洋から輸入された漆を塗った精巧な調度品が流行っていました。

日本からも蒔絵を施した漆製品がイギリスやフランスに

輸出されていました。

 

日本の調度品が畳の部屋に合わせて作られていたために、

家具の高さが低く、意匠もそのままではヨーロッパの室内に

マッチしないので、蒔絵のパネルなどを必要な大きさに切り離して、

西洋の家具に仕立てるケースも多くありました。

 

この写真は、蒔絵のパネルを切ってコモード(サイドボード)に

仕立てた物です。フレンチです。

 

蒔絵のディテールは非常に繊細で、18世紀に流行したロココの

デザインと上手く組み合わせています。

 

素晴らしいのは、蒔絵の部分に大きな剥がれやヒビが入っていません。

家具の表面はとてもスムースです。

もちろん今までに修復も当然されているのですが、漆の耐久性が

高い事が良くわかります。

 

アンティークのオークションでも非常に高価で売買されます。

 

同じ時期に、漆の蒔絵を真似た漆仕上げ風の家具もヨーロッパでは

たくさん作られました。

 

漆の代わりに、チョークの粉をにかわで固めた物を木の表面に塗って、

油性の絵の具や金箔で仕上げて、蒔絵風に見せていました。

この技法をジャパニングと呼びます。

ヨーロッパには漆の木が自生していなく、漆を硬化させるのに必要な

高温多湿な気候も無いので、この方法がとられていました。

 

このビューローキャビネットは、17世紀にイギリスで作られた物で

ジャパニングで仕上げられています。

 

朱塗りの漆に金蒔絵を施したように見せています。

 

一見すると繊細なディテールがあるように見えますが、近くで見ると

本物の蒔絵よりもだいぶ大ざっぱなディテールで、差は歴然です。

また家具の表面は大分劣化して、最初に紹介したコモードよりも

ザラついて艶もありません。

漆と比べるととても劣化に弱い仕上げです。

 

ヨーロッパで家具の修復や保存をしている人達には、漆とジャパニングの違いはよく理解されています。

 

だからと言って、この家具がダメな物なのかと言うとそうではなくて、

とても魅力があります。

 

家具のプロポーションも均整がとれているし、蒔絵風のデザインや配置、ディテールも家具に良くマッチしています。日本から輸入したパネルを

切り貼りしても、ここまでの統一感は出ません。

 

劣化して変色した朱塗りの風合いも、年季の入ったヨーロッパの

室内空間にとても馴染みがいいです。

 

作られた時は同じように見えていた蒔絵とジャパニング。

経年変化とその風合いを鑑賞するのは本当に楽しいです。