「彫刻家 山脇敏男の作品を修復」 | Classic to Modern デコラティブアート的造形と家具作家の日記

「彫刻家 山脇敏男の作品を修復」

彫刻作品を所有する個人のお客様から修復の依頼を受けました。

新潟や東京で活動していた彫刻家、山脇敏男さんの作品です。
日展の審査員もしていた人物です。
1974年に他界しているので、恐らく50年前くらいの
作品だと思われます。




この作品は、楠正成が出陣するために馬に乗ろうとしている場面を
彫刻にしています。

材料は山桜です。
恐らく作品にするためにストックしておいた丸太から彫られています。

彫刻刀の刃型を残してゴツゴツとした質感の残る部分と、
刃型を消してスムースな質感にした部分とのコントラストが
印象的な作品です。

作品の表面は部分的に彩色してありますが、基本的に無塗装で、経年変化で
木の色が濃くなっていました。

全体的に虫食いによる木部のダメージが見られました。
これは無塗装であることも大きな要因ですが、
桜は虫食いに弱い木でもあります。
特に楠正成の左足先は、虫食いでつま先がなくなってきていました。






まずはすべての虫食い穴に殺虫剤を大量に注入して、樹脂で固めました。

つま先のなくなった左足先は、このままでは再生できないので、
ダメージの大きい部分を切り落としました。



切り落とした部分に桜材を接着。



その後つま先部分を彫刻していきます。



彫刻の再生が完了しました。



作品を十分観察して、この彫刻家の刃物の使い方や、使われた刃物の形状を
推測しながらの作業でした。

この後着色をして、修復部分をほかの部分にマッチさせました。






この修復では、

1.これ以上の虫食いによるダメージを予防する。

2.虫食いにより穴だらけになった木部に樹脂を注入して固め、
  作品の強度を確保して保存性を高める。

3.欠損部を再生して彫刻を元通りの形にしてあげる。

という3つの事をしました。

お父様の形見としてこの彫刻を所有しているお客様が、
末永く大切にこの作品を保管するためのお手伝いができました。

そんな喜びのある仕事でした。