「ねぇ、聞いてる?」
しっかり聞いてるよ。一言残さず。些細な事だって逃すものか・・・・君のその声、その眼差し・・・。言葉を発するたびに、唇の動きから、微かに覗かせるかわいらしい八重歯まで。すべてが愛しい。
「シンゴの奴、酷いのよ・・・・」
そう、シンゴは酷い奴だ。こんなにも愛らしい、こんなにも魅力的なアリサを平気で傷つけ、悲しませ、なのに愛されてやがる。ムカつくほどに嫌な奴だ。親友ではあるが・・・・。
目の前で、他の男との惚気話を聞かされても、アリサと過ごすこの時間にだけ幸せだと感じるオレはすでに病んでいる。
日本の総人口の半分が女だから、適齢期からプラスマイナス10歳前後までに絞ったところで、2000万人は恋愛の対象が居るだろう。なのに、オレが求めるのはこのアリサ、シンゴと付き合ってる彼女を欲している。
シンゴもアリサも・・・二人ともオレにとっては親友という名の曖昧な関係であるのに・・・・。
オレはシンゴのほぼすべてを把握している。
奴の好み、奴の過去、奴の夢から、奴がアリサを裏切った回数まで。すべてを知りながら、すべてを語る事が出来ない。
幸せそうに話をするアリサが、事実を知ったらどうなるか・・・・。
すべてをぶち壊し、すべてをさらけ出したところで、アリサがオレに向くことは無いだろう。だからこそ、この偽りの相談の時間だけが、オレの唯一の至福の時。
「そういえば、マコトはまだ彼女できないの?」
こんなにもアリサに焦がれるオレに、他の女と付き合えというのか?愛の無い、動物的欲求だけならばいくらでも懐くことは可能だろう。
が、それがなんになるんだ?塩の効いた水のように、飲めば飲むほどに体が渇くだけの虚しさ、そんなものがなんになるんだ?欲しいのは目の前のアリサ、それが例え禁じられた果実であっても・・・。
「どうしたの?怖い顔して・・・あたしの話聞いてる?」
オレは病んでいる。こんな生産性の無い関係を、無駄な時間を費やして目の前のアリサとの会話だけを楽しむなんて、やがて抑えきれない感情は暴走し、自分自身の精神の安定を砕くだけだと、理性では判っていながら・・・。
今日もまた、心から欲しながら手に入らないものと私服でありながら苦痛なときを過ごした。いつか、オレはきっと・・・・。