「なに、この雑誌。随分古そうだけど」
表紙のモデルは、一昔前に流行した水着姿でポーズをとっている。
どこかで聞いたことがあるような雑誌の名前だが、いかにもゴシップ専門というそれに、
幸恵は興味を抱いたことはなく、当然読んだ記憶もなかった。
「俺、気になって調べたんや。次男のこと」
パラパラとめくるページに視線をやりながら、遼平は続けた。
「楠原聡子は、次男を水の事故で亡くしたとだけ話してくれた。確か幸恵はそう言ったよね」
「え、ええ」
信二の行方を捜す材料になるとは思えない過去の一件に、彼が探りをいれたことを疑問に思ったが、
幸恵は、彼女から語られた内容の、そのほとんどについて遼平に伝えることはしなかった。
私の不注意だったんです。悪いのは私なんです。
あの時、小さな位牌の前で、涙に目を潤ませ未だ後悔の念に苛まれつづけている彼女の苦しい過去に、
誰であろうが、入り込むべきではないと幸恵はそう決めたのである。
「なんで、こんなことに俺が首を突っ込むねん。今そう思っているやろ」
顔を上げた遼平の、あまりに意標をついた言葉にうろたえたが、
「そりゃそうよ。聡子さんがお願いしたのは息子さんの捜索だけだもの。
それ以外は私達には関係のないことでしょ」
誤魔化すように、少し憮然と切り替えした。
「もちろん、依頼の範囲を越えていることはわかっている。自分自身、らしくない感情に囚われている気さえしてるんやから。けど、どうして信二は出ていかなあかんかった。弟を亡くした後、悲しみにくれる両親を振り切って、そうまでして出て行くきっかけはなんだったのか。俺には、それがわかれへんかった」
そう言って、雑誌の開いたページを幸恵の方に向けた。
そこには、目の辺りを黒く塗りつぶされた人物の写真とともに、大きく見出しで
慈愛の皮を被った家族の本性。そして被害者となった息子の悲惨な末路
と書かれてあった。