三國屋物語 第17話 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

三國屋物語 第17話

 芹沢が身をのりだし、

「つかえるぞ」

 といって、剣をにぎる格好をした。
「剣術修行といっておったが、嫁はまだ娶(めと)っておらぬのか」
「はい。気ままな身の上ゆえ、これから、ゆるりと開国修行に出向こうかと思っております」
 外が騒がしい。誰かが外から駆け入ってくる音がする。土方がすばやく腰をあげ土間へとむかった。
 しばらくして土方が、

「芹沢局長」

 と、声をかけてくる。芹沢が鷹揚(おうよう)に腰をあげ部屋をでていった。
 聞きもれてくる会話の中に「新見」という名前があった。新見錦(にいみ にしき)。芹沢鴨、近藤勇とおなじく新選組局長である。
 現在の新選組は大きくわけるとニ派で構成されている。芹沢鴨を頭とする水戸派。そして、近藤勇を頭とする試衛館(しえいかん)派だ。新見は水戸派である。芹沢につぎ悪評のたかい人物で、芹沢の腰巾着(こしぎんちゃく)ともいわれていた。なにかまた騒動でもおこしたのだろうか。
 芹沢が戻ってきて不機嫌そうに篠塚の名を呼んできた。
「はい」
「ちょっと野暮用ができた」
「また出直してまいります」
「すまん。ところで、篠塚くんは、いつまで京におるのだ」
「昨日着いたばかりでございます。まだ先のことは考えておりません」
「では日をあらためさせてくれるか。折り入って話したいこともある」
「……承知いたしました」
「近いうち、また会おう」


 壬生寺の前をとおると、隊士たちが浅黄(あさぎ)色にだんだら模様を染め抜いた隊服姿で列をなしていた。刀をたばさむ者もいれば刀と槍(やり)、両方をたずさえる者もいる。瞬が頭をさげながら脇を通りぬけていると、

「三國屋さん」

 と、呼びかけてきた男がいる。沖田総司(おきた そうじ)だった。
「沖田さま。これから見廻りでございますか」
「ええ」

 沖田が、まだ幼さを残す面差しに笑みをうかべ篠塚に視線を投げた。篠塚に興味があるようだ。
「こちらは、水戸の郷士で篠塚雅人さまでございます」
 篠塚が軽く会釈する。

 沖田が、

「水戸ですか」

 と、声をもらし、下から上へと珍しいものでも眺めるかのように視線を流した。
「芹沢局長のお知り合いですか」
「はい」
「京へは、新選組に入隊するために?」
「いえ」
「なら、きっと、これから口説かれますよ」
 篠塚は目をしばたかせると、この無邪気な男を眺めた。

 土方をして「新選組で一番強い」といわしめるほどの男だ。さぞかし腕がたつのだろう。とはいえ、この天真爛漫(てんしんらんまん)な雰囲気からは血の匂いはおろか殺気の欠片(かけら)すら読みとることができない。
 だがつかえる……。
 無防備にみえる物腰も、それが最大の防御とでもいいたげに、腰にある刀の脇にだらりとたれ下がっていた。おそらくわずかにでも殺気を匂わせたなら、その右手はなんの躊躇(ちゅうちょ)もなく刀の柄にかけられるのだろう。
「あれ。無口な人なんですね」
 さも当てが外れたといいたげに沖田がつぶやく。

 瞬は、

「そうなんです」

 といって、大きくうなずいた。
「さっき、土方さんが必死になって口を動かしていたから、よほどお喋り好きな人だと思ったのだけれど」
「そういえば、土方さま、よくお話しになってました。芹沢さまのお客人なので気をつかわれたのでしょうか」
「とても、そんな気遣いができるとは思えないけどなあ。土方さん」
 瞬と沖田が肩をつぼませ笑った。この二人は、どこか似ている。
 背後で沖田の名を呼ぶ声がする。沖田は会釈すると小走りに去っていった。
 篠塚はなにげに肩の緊張をといた。無意識のうちに警戒していたことに気づく。眉一つ動かさず人を殺(あや)める男がいるとしたら、おそらく沖田のような男だろう。敵にまわしたくない男だとおもった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  BACK   |  もくじ   | NEXT    

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




瞬のおねだりに投票
ブログ村・ランキングです。ポチいただけると嬉しいです(^▽^)



こちらもついでにポチっと(^▽^;)


ネット小説ランキング「黄昏はいつも優しくて」に→投票

日本ブログ村・ランキングに→投票

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「三國屋物語」主な登場人物

「三國屋物語」主な登場人物

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・