黄昏はいつも優しくて3 ~第119話~
篠塚の態度の変化に美樹は一瞬戸惑ったようだが、すぐともとの余裕をとりもどした。
「キエネ社の社長の息子だってこと。学生時代につきあっていたってこと。どうでもいい女には優しいのに本命の相手には手がだせない臆病者だってこと」
本命……?
誰の話をしているのだ。学生時代のことだろうか。
篠塚が眉間のあたりに指をあて「まいったな」と、ぼやいた。
「最初は盗撮マニアの一件に便乗するつもりだったんだろう」
「まあね」
「ところが、やつは早々に捕まってしまった。どうしてすぐに手を引かなかったんだ」
「どうしても許せなかったのよ、あなたが」
「……詳しくききたいんだが」
「わたし、男運が悪いの。こんな話でも?」
篠塚が、どうぞといった仕草で手をさしだした。
美樹は足をくみなおすと、頭のなかを整理するかのように、ゆっくりと話しだした。
「彼女に会うまえのわたしは男に騙されて捨てられて、そのくりかえしだった。男だけじゃない。わたしをとりまく人間すべてが、あの頃は敵だった。以前勤めていた会社も同僚のいじめに耐えられなくなって辞職したの。毎日が、もう最悪。あなたのように恵まれた人からみると、さぞ、くだらない人生にみえるでしょうね」
美樹が挑戦的ともとれる口調でいう。篠塚は、だが肩をすくめただけだった。
「いまの会社でも入社当初はずいぶん嫌がらせをうけたわ。だけど彼女だけは違った。そんなわたしを彼女は徹底的にフォローしてくれたの。わたしに人のもつ優しさと強さを教えてくれたのは親でもなく兄弟でもなく同僚の彼女だった」
「………」
「ねえ、わかる。いまのわたしは彼女がいるから存在しているの。そんな彼女と一緒に仕事ができる幸運に心から感謝したわ。わたし、神様に感謝したのってはじめて。人間って捨てたもんじゃない。そうおもえるようになったのも彼女がいてくれたから。彼女の幸せがわたしの幸せなのよ。……なのに、あの日」
「あの日?」
「去年の十二月二十三日。あなたはどうせ忘れてしまっているでしょうけど。あの日、夜遅くに、ふられちゃったって彼女から電話がかかってきたの。彼女の泣き声をきいたのは、あの夜がはじめてだった」
去年のクリスマスイブ……。
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