黄昏はいつも優しくて3 ~第113話~
北沢が一拍おき振り返ってきた。
「徳川があなたにどう話しているのかは知らないが、徳川を必要としているのは俺のほうだ」
北沢が眉間のあたりに深い憤(いきどお)りをみせた。
「篠塚さん、あなたは間違ってる」
「北沢さん。俺は周囲の期待を背負って生きていくタイプの人間じゃない」
「過小評価だ。あなたらしいといえば、そうですが」
「事実、社長の椅子より俺のなかでは徳川の存在のほうが大きい」
あ……。
胸が熱くなった。篠塚の口からこのような言葉が出てくるなど想像すらできなかった。
北沢が「正気じゃない」と、つぶやく。
「十年もすれば、それがどれほどくだらない選択であるか思い知らされることになりますよ」
「それでも、徳川がいてくれないと今は困る」
「どう困るんです」
「仕事が手につかない」
いって、篠塚が肩をすぼめた。
北沢は小さくかぶりをふると、そのまま玄関へと姿をけした。
ドアの閉まる音が響いてくる。
二人だけの沈黙がもどってきた。
瞬はすばやくテーブルをまわりこむと、いきおいよく篠塚に抱きついた。
二人して、もつれあうようにソファへと倒れこむ。
篠塚が「おい」といって、上目遣いに睨んできた。
「俺が病みあがりだってことは、わかっているな」
すっかり忘れていた。
「……もう、寝ますか」
こちらも上目遣いに言葉をかえす。情けない声になってしまった。篠塚が盛大に吹きだした。
「なんですか」
「いや」
篠塚の笑いはいっこうにおさまらない。頬のあたりを大きくふくらませる。先刻までの高揚した気分がものの見事に萎んでしまったではないか。
「帰ります」
「好きだ」
「え」
篠塚がふたたび「好きだ」といった。澄んだ瞳が目の前にあった。吸いこまれるように顔をよせる。瞬は「ぼくも、好きです」と囁くと、篠塚の唇にそっとくちづけた。
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