黄昏はいつも優しくて3 ~第108話~
「みせていただけますか」
北沢が篠塚の手にあるカサブランカに視線をうつす。篠塚が無言でさしだした。
「逮捕された管理人の息子は貴子さんを盗撮していたんですね」
「ええ。わざわざ写真を届けてくれたの。ついでに部屋も荒らしてくれちゃって。ほんと散々だったわ」
「お気の毒です。で、もうひとりのカサブランカの君は貴子さんと会った翌日、必ずこの花を篠塚さんのマンションの郵便受けに届けにきていたわけですね」
篠塚が憮然と「現在進行形だ」といった。
瞬がそれぞれのまえに湯気のたつ珈琲をおいていく。
北沢が礼をのべ美味そうに一口すすった。
「徳川くんが持っているものも見せてもらえるかな」
「はい」
足元においてあった鞄のなかから茶封筒をとりだし手渡す。
北沢が両手に萎びたカサブランカをもち様々な角度から眺めだした。
「管理人の息子は、どうして掴まったんです」
「わたしの部屋のドアの前でうろついていたらしいの。たまたま訪ねてきた刑事に職務質問されて、馬鹿正直に逃げだしたんですって。で、部屋にいってみると、わたしの写真展覧会」
いって、貴子が肩をつぼめた。
「ずさんで計画性もない。それほど悪意があってのことじゃなかったんでしょう」
「じゃあ、なんなのかしら」
「ファン心理に近かったんじゃないかな。貴子さんは魅力的な女性ですから」
貴子がまんざらでもない面持ちで篠塚の顔をのぞきこむ。篠塚がくだらないといった様子でかぶりをふった。
「このカサブランカの君とは対照的だな」
「へえ……」
面白い。まるで探偵小説の登場人物にでもなった気分だ。
北沢が二つのカサブランカを目の高さにならべ、ふたたび言葉をついだ。
「神経質で計画的。この茎の切り口を見てください。ちゃんと剪定(せんてい)ばさみを使用し、しかも計ったようにおなじ角度です。それに、花粉もきれいに拭ってあるでしょう」
「百合の花粉は強力だから洋服なんかにつくととれないのよね」
「そう」
「篠塚さんに気を遣って花粉を?」
「自分の衣服につかないように、じゃないかな。確かな物証になるからね」
「でも、毎回、マンションの郵便受けにいれるなんて、すぐに見つかってしまうとおもわないのかしら」
貴子が片眉あげ口をとがらせた。
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