黄昏はいつも優しくて3 ~第88話~
相手を追いこむような問答。やはりいつもの北沢とちがう。これほど根拠のない感情論で会話を展開する北沢を瞬は知らない。
北沢が上着のボタンをはずしてきた。
冗談ではない。合意でないとはいえ、ここで北沢と関係をもってしまったら篠塚への弁明すらできなくなるではないか。
「どこまで許してるの」
「え」
「篠塚さんに。君、とても敏感だよね」
北沢の手がパジャマのうえから劣情にちょくせつ触れてきた。吐息ににた声がもれでる。もたらされる快感に全身の力が萎えてしまいそうだ。
「北……」
「すぐにいきたい?」
北沢がいうと、まるで医師の問診にちかい。しごく事務的な質問のようにきこえてくるのだ。
医者……。
「あの」
「なに」
「さっきの話のつづきですけど」
乱れた呼吸を静めつとめて抑揚のない声をだす。
北沢がおやといった面持ちで瞬をみてきた。
「篠塚さんがぼくに依存してるって」
腕力ではかなわない。ここは北沢のなかにある医師の部分を強引にひきずりだすしかない。北沢の瞳に穏(おだ)やかな色がうかんだ。いつもの北沢にちかい。だが、かえって逆効果だったと、すぐに知ることになった。
「こんな状況でも篠塚さんの話? ひょっとして、ぼくを焚きつけようって気なのかな」
北沢の膝が両脚のあいだをわってはいってくる。いっそう身動きがとれなくなってしまった。
眠い……。
睡魔が追い討ちをかけてくる。快感と疲労感で意識が散漫になってきた。いっそこのまま流されてしまおうか。
そもそも、どうして北沢と二人にして残していくのだ。このような展開になるということへの危惧(きぐ)はなかったのか。それとも、父親が倒れたという事実が瞬の存在を忘れさせてしまったのだろうか。
しごく投げやりな気分になってきた。北沢がズボンをおろしにかかる。その手を払いのけようとして動きがとまった。これは誰のための抵抗なのだ。
篠塚さん……。
一方通行の想いだ。いったい自分はなにを貫きなにを守ろうとしているのか。道化にでもなったような気分だった。自分は一人芝居を演じている哀れな存在でしかないのではないか。
この状況をどうしろというのだ。非力なのは仕方がないことだ。篠塚が去ってしまった以上、助けにくる人間などいない。
もうどうでもいい……。
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「黄昏シリーズ」メインキャラ身長対比図
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