黄昏はいつも優しくて3 ~第62話~ | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

黄昏はいつも優しくて3 ~第62話~

「………」

 あいかわらず茎は鋭い切り口で落とされ花粉はきれいに取り除かれてあった。メモはどこだろうかと探すが見当たらない。
「これ、今朝、届いたんですか」
「昨夜だ」
「ストーカーは貴子さんの後をつけてきたんでしょうか」
「そんなところだろう。俺を見張っていたとはおもえない」
「手紙はなかったんですか」
「あったが、貴子がもっていった」
「貴子さんが?」
「調べてみるそうだ。まあ、プリンターとインクが特定できたところで何もできないだろうが」
「なんと書いてあったんですか」
「怒りの一文字だ」
 怒り……。
 胸騒ぎがした。
 今日は武技奉納の日だった。手にさげたバッグを静かに足元におく。中には武技奉納のための道着と道場の慰安旅行用の着替えがはいっていた。武技奉納のあと、その足で慰安会の場所である軽井沢へとむかうためだ。
 篠塚はスーツ姿だった。瞬はコットンシャツにジャケットをはおった普段着姿だ。武技奉納は都内の神社で催される。招待した流派は五流派だときいていた。篠塚は師範なので服装にも気をつかうのだろう。
 篠塚が腕時計をちらとみて「まだ時間があるな」といった。
「珈琲でもいれましょうか」
「ああ」
 サイフォンで淹れるほど時間の余裕はない。インスタントのドリップを使用し二杯の珈琲をいれた。春のやわらかな朝の陽射しに白い湯気が溶けこみ、遠くで電車の音がしている。静かな朝だった。
 テーブルにカップをおき篠塚の横に腰をおろす。珈琲を一口すすり、篠塚が意味ありげな横目をつかってきた。
「なんですか」
「昨夜(ゆうべ)は誰といたんだ」
「……従兄弟(いとこ)です」
 篠塚が短く息をもらした。信じない。そう言いたげな態度だった。
「発作はあれからおきないのか」
 篠塚に問いかけられ忘れかけていた記憶が突如としてよみがえってきた。マケインの姿が脳裏をよぎる。

 はいと答え、かすかに息をつめる。すると、いきなり篠塚が唇をうばってきた。珈琲のほろ苦さが口中にひろがる。篠塚にしてはめずらしく濃厚なくちづけだった。
 長いキスの後、かすかに息を弾ませ篠塚の胸にもたれかかる。篠塚がしっかりと抱きしめてきた。
「好きだ……」
 答えるかわりに強く抱きしめかえす。篠塚がふたたび、くちづけてきた。



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