黄昏はいつも優しくて3 ~第60話~
篠塚のマンション近くまできて見慣れたスポーツカーが視界にはいってきた。篠塚の車だ。無意識のうちに電信柱の影に身をかくす。通り過ぎる瞬間、助手席に貴子の姿がみえた。
どうして……。
貴子は今夜から会社の同僚の部屋に寝泊りするのではなかったのか。篠塚が嘘をいったとはおもえない。貴子がなんらかの事情で取りやめたのだろう。篠塚も瞬が今夜、部屋にこないであろうと踏んで許した。どうしてなのだ。どうして、そこまで貴子に寛容になれるのだ。篠塚にとり瞬の存在とはいったいなんなのだろう。やはり、篠塚はまだ貴子のことが好きなのではないか。
どのくらいそこにいただろう。見上げると、篠塚の部屋からはすでに灯りがもれていた。自嘲的な笑みがこぼれでる。自分がまるでストーカーにでもなったかのような気分だった。いや、似ている。一方的に執着しているのは瞬も変わらない。そんな気がした。
篠塚は限りなく淡白だ。北沢の件にしてもそうだ。あとから指摘することはあるが、執拗に心情を探ってくることもなければ行動を追及することもない。今夜も、あきらかに親戚とあうことにたいして懐疑的な態度をとってきたが、結局、不問のまま口をとざした。訊きたくないのか。それとも訊く必要もないと思っているか。
はなから興味がないんだ……。
独占されたくない。だから独占もしない。そんな方式がしっくりとくる。瞬にとって、篠塚はそんな一面をも持ち合わせている存在だった。
一陣の生暖かい風が脇をとおりすぎた。背後に枝を垂れた葉桜が乾いた音をたてる。瞬は空いた手に鞄をもちなおすと、ゆっくりと自宅へとむかって歩きだした。
「どうしてなの。どうして、わたしがここにいるってわかったの」
「どうしてだろうな」
「ありえないわよ。だって、誰にもいっていないのよ」
「すこしは落ち着け」
篠塚が苛立たしげに声をあげる。だが視線は、リビングテーブルの上におかれたカサブランカにそそがれていた。
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