kiss scene189
斉藤がバランスを崩しソファに尻をついた。京介が胸倉を掴んだまま挑みかかるように体重をかける。斉藤はしかし、硬く口を引き結んだままだ。
「どうしてとめなかったんだ!」
「すべては良造さんの意思です」
京介が激しくかぶりをふる。
「死んだら片がつくのか」
「片がつくかつかないかは被害者の遺族が決めることです」
「俺は認めない」
「京介さん。あなたは加害者サイドの人間だ」
「だからといって………」
どうしたことか、京介が崩れるようにして斉藤にもたれかかった。斉藤が入れかわるようにして京介をソファに寝かせる。逃すまいとして京介の手が斉藤のネクタイを鷲づかんだ。
「……なにを飲ませた」
斉藤がかぶりをふる。京介はふたたび口をひらきかけたが、そのまま虚ろな視線を宙に彷徨(さまよ)わせ、やがてゆっくりと目をとじた。
駆け寄って京介の脇に両膝つく。斉藤が「精神安定剤です」といって、乱れた襟元をなおした。
京介の目じりにうっすらと涙がにじんでいる。良造と龍之介の死の衝撃もあっただろうが、それ以上に、なにも知らされなかったことへの憤りが大きかったのだろう。
「他に方法はなかったんですか」
「………」
「こんな結末、誰も望んではいなかったんじゃ」
「わたしが望んでいたと?」
斉藤が眉間のあたりに苦渋の色をにじませ、しぼりだすようにいった。
望むわけがない。おそらく被害者遺族でさえ良造の死を望んでいる者はいなかったろう。あるいは良造は、貝原工業のため龍之介を道連れに殉職したともいえる。
斉藤が上着のポケットから四折りにしたA4サイズの書類をとりだした。
「明日、おそらく警察が任意同行を求めてくるでしょう」
「なんの取り調べですか」
「レイナの別荘の焼け跡から発見された京介さんの腕時計。そして、あなたがた二人の空白の三日間に対する取調べになるはずです」
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