second scene113 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene113

 北沢が苦笑まじりに「たいした自信だ」と、つぶやいた。
「傍にいるからわかる」
「………」
「それに、徳川も寡黙な人間だ。おたがいに言葉がたりないのはわかっている。だがこれは、俺たちふたりの問題だ」
「いまはそうかも知れない。でもね篠塚さん、あなたも接し方を変えるべきだ。彼は繊細すぎる。昨夜も寝ていないんじゃないですか、彼」
「………」
 篠塚が腕をとってきた。ひき起こされ、ふらりと立ちあがる。
「篠塚さん……」
「帰ろう」
 北沢をみると、複雑な面持ちで瞬のセーターをさしだしてきた。


 料亭をあとにすると篠塚はタクシーをひろった。今日は酒がはいることがわかっていたので車は置いてきたらしい。
 タクシーに乗りこみ、ようやく篠塚の顔をまじまじと見る。その横顔からは感情はみえてこない。瞬を避けているのだろうか。

 篠塚のマンションのまえでタクシーをおりた。おたがいに終始無言のままだ。重苦しい雰囲気は否めない。瞬にしても軽率だったとはおもうが篠塚にしても貴子と飲んでいたのではないか。篠塚の沈黙がしごく疎ましい気がしてきた。
 篠塚がマンションのエントランスにむかって歩きだした。
「あの」
「なんだ」
 相変わらず瞬を振りむきもしない。ないがしろにされた気分だった。
「ぼくはここで」
「いいからこいよ」
 はじめて篠塚が瞬をみてきた。だが、一瞬のことだ。歩きだした篠塚のあとを不承不承ついていく。部屋にはいり、いわれるままリビングのソファに腰をおろすと、篠塚は冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだし喉をならして飲んだ。ようやく、ひとごこちついたのか大きく肩で息をつく。それからカウンターのうえのサイフォンを手馴れたしぐさで用意しだした。アルコールランプに火を灯す。いつもは好ましい静寂だったが、この時ばかりは居心地が悪かった。
 やがてアルコールランプに熱せられた湯がポコポコと音を立てだしたころ、ようやく篠塚が口をひらいた。
「どうして北沢の誘いに乗ったんだ」
「食事にさそわれて」
「それで、のこのこついていったのか」
 のこのこ……。
 この言い方はしごく神経を逆なでしてきた。篠塚にしても貴子に誘われて、のこのこ出かけていったではないか。
「別に、のこのこついていったわけじゃないですから」
「食事で服をぬぐ必要があるのか」
「あれは……」
「どうしてそう無警戒なんだ」
「ちょっと酔ってしまっただけです」
「酒に弱いのは、いまに始まったことじゃないだろう」
 篠塚が珈琲豆をセットしながらいった。詰問するような口調だ。無性に腹がたってきた。
「篠塚さんだって貴子さんと飲んでいたんでしょう。ぼくがだれと食事をしようと勝手じゃないですか」
 おもわず声を荒げてしまった。

 篠塚が動かしていた手をとめた。

「だから一緒にこいと誘ったろう」
「どうしてぼくが貴子さんと飲まなきゃならないんですか」
「なら、嫌だといえばいいだろう。どうして先約があるなんて嘘をついたんだ」
 本当にわからないのだろうか。貴子は元恋人だ。嫌に決まっているだろう。
 すばやく立ちあがり篠塚を睨む。
「帰ります」
「まだ話は終わっていない」
「話すことなんて」
「北沢とは話すことがあったのか。どうしてわからない。あいつの魂胆はみえみえだろう」
「北沢さんは、そんな人じゃありませんから」
「ほう……。どんなやつなんだ」
「………」



 

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