second scene98 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene98

「おはようございます」
 黒岩が親しげに挨拶をしてきた。挨拶をかえし鞄を置く。それから手早く珈琲の用意にとりかかった。今日は珈琲を拒む気はないらしい。黒岩は篠塚にすすめられるままソファに腰をおろした。
「先日は間宮会長との席をもうけていただき、ありがとうございました」
 篠塚はちらと黒岩をみて「いえ」と、だけ言った。どうやら半信半疑らしい。黒岩の言葉を素直に受け取るなという北沢の言葉が脳裏をかすめた。
「今日は、その後のことをうかがいにきたんですが」
「その後?」
「ええ。常務のことですから何らかの手を打たれたのではないかと」
 篠塚がかすかに眼を細めた。黒岩の言葉の裏を考えているのだろう。やはり篠塚だ。勘がいい。
「何らかの手ということは、何かしら問題があったという事でしょうか。あの会席で、わたしはそういった事に関してお話した覚えはありませんが」
「でも、あったんじゃないですか」
「と、いうと」
「三木原専務が昨日の役員会を欠席しました」
「ええ」
「ありえないことです。あの三木原専務が」
「おっしゃっている意味がわかりかねますが」
「敵は本能寺にあり。間宮会長がおっしゃっていましたよね」
「そうでしたか?」
 確かにいっていた。本当の目的、目標は別にあるということを示唆した助言だ。あの時は、てっきり三木原のことを指して言っているのだとおもっていたのだが、ひょっとして間宮は黒岩のことを言っていたのかも知れない。そして、篠塚はそのことに気づいていた。
「常務、わたしがそんなに信用できませんか。来春、わたしがあなたの兄になったとしても、あなたはその態度を変えてくださらないかも知れませんね」
「ビジネスとプライベートは別です。それとも、今から兄さんとお呼びしましょうか。わたしはかまいませんが」
 篠塚らしからぬ、挑戦的ともとれる言葉だった。
 瞬は固唾をのんだ。
 珈琲の香りが部屋を満たしだした。
 黒岩が上目遣いに篠塚をみて口辺をひきつらせた。
「それには及びません」
 言って、黒岩がかぶりをふった。篠塚のことだ、穏便にすませるつもりだろうが、黒岩の態度はあきらかに篠塚を挑発している。
 篠塚がすくと立ちあがりデスクに戻った。これ以上、話したくないといったようすだ。黒岩が軽く会釈してドアへとむかった。そのまま振りむきもせず部屋をでていく。瞬はひそかに息つくと、篠塚のカップに珈琲を注いだ。

 北沢の言葉が頭から離れない。

『言葉どおりに受け取らないほうがいい』

 黒岩の先日の謙虚な態度の裏にはなにかある。黒岩の目的は別にあったと考えていいだろう。では、その目的とはいったい何なのだ。




前のページへ | もくじ | 次のページへ





瞬のおねだりに投票
ブログ村BL部門です。ポチいただけると嬉しいです(^▽^)


こちらもついでにポチっと(^▽^;)



秋葉原ネット→投票
アルファポリスWebコンテンツ「黄昏はいつも優しくて」に→投票

日本ブログ村 BL部門に→投票