2009年12月18日

second scene90

テーマ:黄昏はいつも優しくて2

 丁重に謝罪し受話器をおく。篠塚が含み笑いで瞬をうかがっていた。
「最初からわかってたんですね」
「素直にこっちの誘いに乗ってくる相手じゃないからな」
「どうするんですか」
「いいんだ。これで三木原の執務室にいく口実ができた」
「口実……」
「いきなりいっても門前払いを喰わされるのがオチだ」
 篠塚が冷めた珈琲を口にはこぶ。篠塚らしいと思った。
 その夜、七時からのミーティングに出席し本社近くで食事をとった。
 食事中、篠塚は北沢のことにも三木原のことにも触れてはこなかった。

 篠塚の車でマンションに着いたときには、すでに午後十一時をまわっていた。

 帰りたくない……。

 篠塚は何もいわない。車を降り振りかえりもせずエレベーターホールへと歩きだす。別れの挨拶を交わす気はないようだ。瞬は無言で篠塚の後につづいた。


 リビングのソファにくつろぐ篠塚は、しごく穏やかな顔をしている。端正な横顔に、いくぶん疲れたように伏せた睫が頬に影をおとしていた。

 二人きりの空間。しんとした部屋。窓の外は木枯らしが吹いていた。エアコンの音が異様におおきく耳に響いてくる。篠塚が首をのけぞらせネクタイをゆるめはじめた。

 肌に触れたい……。

 あの夜の激しさが鮮明に蘇ってくる。それだけで肌が火照ってきた。しごく淫乱になった気分だ。以前の瞬なら即座に自分自身を否定していただろう。
 でも今は……。

 瞬の沈黙をどうとったのか、篠塚が「どうした」と、訊いてきた。
 歩いていき篠塚の胸にしなだれかかる。
「欲しい……」
 この一言を素直にいえるまで数え切れないほどの逡巡をくりかえしてきた。深く関わらなければ諍(いさか)いもおこらない。篠塚と出逢うまえは他者との距離で自分の立ち位置を決めてきた。だがいまは違う。篠塚と距離をおきたくなかった。ただ、自分のこの想いに真摯でいたい。先が見えない恋であるのなら、せめて今だけでも、この瞬間だけでも篠塚を自分のものにしていたい。過ぎていく時間が疎ましかった。このまま時間が止まってしまえばいい……。
 篠塚が唇を重ねてくる。首に手を這わせ応えようとしたところで、篠塚がくぐもった声でいった。
「ひょっとして、おまえ」
「え」
 ここでその台詞を言うのか。

 このあとに飛びだしてくる斟酌のない言葉を予想して目を細める。
 篠塚が「北沢と」と、口をひらく。瞬は遮るようにしてすばやく唇を重ねた。

 いつもの弄ぶようなくちづけが欲しい。このまま夜の帳にかくれて篠塚を心ゆくまで抱きしめていたい。邪魔などさせない……。
 瞬の気持ちを察したのか、篠塚が息苦しいほどに強く抱きしめてきた。






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