second scene85
篠塚がわずかに身を乗りだした。
「それでは、父に黒岩さんのお母さんを紹介したのは」
「三木原専務です。しかしこれは、本当に偶然のことで。後に母と社長が……」
「恋仲になるなんてことは、予想してなかった」
間宮が合いの手をだした。
「なあ、雅人くん。なにもかも、そう計算づくではいかんよ」
篠塚が座りなおし苦笑した。
今回の婚儀そのものが仕組まれたものではないか。そう、篠塚は言いたかったのだろう。だが、重樹はそれほど暗愚な人間ではない。やはり存在が近ければ近いほど見えなくなるものもあるようだ。
「ところで、黒岩くん」
「はい」
「きみが三木原専務に流した情報とは、先の話だけかね」
「はい」
「三木原専務はそれに対して、きみに何か言っていたかね」
「いえ、なにも。あの、三木原専務が何かしたんでしょうか」
間宮は腕組して考えこみ「そうだね」と、ひとりごちた。
「黒岩くん、きみは雅人くんの味方かね」
「と、いいますと」
「将来、雅人くんが社長のポストに就いたとして、支えてやってくれるか」
黒岩が戸惑ったようすで篠塚をみた。篠塚の表情は変わらない。間宮は交互にふたりを眺め、やがて低く笑いだした。
「また年寄りのせっかちが始まっちまった。まあいい。飲もう」
それから間宮がほろ酔い気分で席をたつまで、篠塚と黒岩は一言も会話を交わさなかった。
帰り際、間宮が篠塚に気になることを言ってきた。
「雅人くん、北沢専務のせがれは君にまかせた」
「わかりました」
「敵は本能寺にありだ。本当の敵を見失っちゃいかんよ」
「はい」
間宮と北沢が去ったあと、篠塚が大きく肩で息をついた。広い背中がいくぶん疲れてみえる。しかし、ふりむいてきた篠塚の表情は、なにかが吹っ切れたかのように明るかった。
「瞬」
「はい」
「明日でも明後日でもいい。北沢を俺の執務室に呼びだしてくれないか」
「ぼくが……ですか」
「俺の秘書としてだ」
「……わかりました」
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