second scene82 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene82

 悪い話じゃない。それどころか……。
 篠塚が間宮の孫娘と結婚したらキエネは安泰だ。次期社長の椅子もなんの苦もなく転がり込んでくるだろう。いや、そもそもこの婚姻そのものが篠塚の将来をどれほど有利にみちびくか計り知れない。それとも、間宮はこの会話を黒岩にわざと聞かせようとしているのだろうか。
 料理が次々に運ばれてきた。
 黒岩は顔色ひとつ変えず料理に箸をつけていたが、間宮が黒岩に視線をなげると箸をぴたりととめた。
「ところで、黒岩くん」
 黒岩は綺麗に箸をそろえて置くと、膝に手をつき間宮の言葉を待った。
「きみはヘッドハンティングされてキエネに入社したそうだね」
「三木原専務に声をかけていただきました」
「キエネに入社するまえは、どこだったんだい」
「アプリコット社に務めていました」
「ほう、アプリコット社。五年ほどまえだったか。一度、役員会がもめたところだね」
「さあ、わたくしは上層部のことは」
「いやなに。その時、名前があがったのが、黒岩という社員と役員が数人だと訊いていたんでね。てっきり、きみのことかと思ったんだが」
 黒岩の頬のあたりに緊張が走った。
「仲人としての、わたしの身辺調査といったところでしょうか」
「わたしは若い頃、篠塚社長の父上に、それは懇意にしていただいてね。篠塚社長は、わたしの息子同然と考えている」
「五年前の事件のなにがお知りになりたいんですか」
 驚いたことに黒岩はすべてを認める気でいるらしい。篠塚が固唾をのんでいる。間宮がつと身をひき上目遣いに黒岩を見やった。
「きみが知っているすべてだ」
「ひとつだけ、よろしいでしょうか」
「なんだね」
「いまになって五年前の事件を蒸しかえす理由を教えていただけますか。お話から察するに、あなたはキエネ社の人間に近い。わたしがもたらす情報はそのままアプリコット社の不利益ともなります」
「守秘義務ということか」

「ここに至って、わたしの立場はどちらに転んでも変わりませんが」
「が、なんだね」
「母は違います。わたしのことと母の婚姻とは別次元で考えていただけませんか」
「過去は過去だといいたいのかね」
「わたしを処分したいのであれば従います。ですが、母に責任はない。母は……」
「わかりました」
 篠塚だった。



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