kiss scene101 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

kiss scene101

 なんてことはない。向かった先は良造の屋敷だった。斉藤も同じことを考えたのだろうか。いや、そもそも京介が単独行動をとった理由を斉藤は知っているのか。
 車をおりると、すだく虫の音につつまれた。先刻の喧騒が嘘のようだ。今の時代とは隔絶された懐かしさが、そここに漂っている。榛名はこの屋敷が好きだった。
「すまなかったね」
 部屋に通されて聞いた良造の第一声だ。榛名は「は?」と、頓狂な声をあげた。
「女房が会長が倒れたなどと間違った情報を伝えてしまった」
「はあ……」
「会長ちがいでね。倒れたのは町内会の長老だった」
「それは……」
 良かったとも言えない。榛名が口をとざすと京介が「姉さんらしい」と、笑った。どうやら斉藤が手をまわしたらしい。さすがに処理が早い。斉藤の処理能力と行動力は底が知れない。敵にまわしたら榛名などひとたまりもないだろう。
「どうせだ。今夜は泊まっていきなさい。榛名くんもね」
「ありがとうございます」
「寿司でもとるか。久しぶりに賑やかな夕飯になりそうだ」
 良造が手もみして破顔した。孝之が手をこまねいている心境がわかるような気がした。良造という人物は、とうてい血なまぐさい今回の騒動の陰の立役者とは思えない。自分も欺かれているのだろうか……。
 良造が「さて」といって、斉藤の名を呼んだ。斉藤がうなずき腰をあげる。斉藤は部屋の一角にある付け書院までいき分厚い書類を手に戻ってくると、京介と榛名、それぞれにさしだした。
「新事業の展開案だ」
「この不況に新事業ですか」
 京介が訊くと「この不況だからさ」と、良造がいった。
「とりあえず目を通してくれないか」
「わかりました」
「わたしは寿司がくるまで休ませてもらうよ。斉藤、いつもの寿司屋だ」

「はい」
 良造が斉藤につきそわれ歩きだす。隣部屋の襖をあけると二人の男が立っていた。京介が立つよう促してくる。榛名はそのまま立ちあがると、二人の男たちと入れ違いに良造の後につづいた。


 庭に面した渡り廊下をいくと奥に板襖が見えてきた。部屋にはいり榛名は目を丸くした。部屋の中央に結城卓也の姿があったのだ。その脇にスーツ姿の男が二人。あきらかに玄人めいた雰囲気で、お世辞にも人相がいいとはいえなかった。
「卓也くん、すまないね」
「いえ」
 本社から直行してきたのだろう。結城はビジネススーツを着込み足元には鞄がおいてあった。

 良造が「訊きたいことがあってね」というと、いくぶん目を細め、良造、斉藤、京介と視線を移し、最後に榛名をみてきた。



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